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掌編小説のススメ」にて企画した1000文字小説を書いてみました。
お題は夏の風物詩、字数制限1000字、ジャンル問わず。では、どうぞ。

* * *

いつも朝顔が笑ってた。
玄関に並んだその花は、歌うように笑ってた。
たくさん水をあげたっけ。毎日欠かさずあげたよね。
だから背中が曲がったの?
そう婆ちゃんに尋ねたら、そうかものおって笑ってた。
駅まで電車で三時間。
そこからバスで一時間。
母さんにもらったお小遣い。父さんがくれた麦わら帽。迷わず一人で来れたんだ。すごいでしょって大いばり。

天井に吊った蚊帳の中。まるで僕の秘密基地。
客間に敷いた二組の布団、縁側近くが特等席。窓を開けて横になる。
火照った体を夜気が包む。
庭ではしゃいだ花火の煙、蚊取り線香のかすかな匂い。
鈴虫と蛙の鳴き声たち。賑やかなのに静かな夜。
すごく、すごく静かな夜。
月明かりに浮かぶ稲穂たち。それから遠くの三岳の山。淡く透き通った紺色世界。遠くで顔を上げたのは、子鹿の群れかそよ風か。
倉の奥から望遠鏡。三脚立てて境筒置いて、照準絞って覗いてみても、結局巧く見えなくて。山から突き出たスギの木や、はくちょう座なんか探してみたり。そのうちそれも飽きてきて、ほったらかしで朝寝坊。

朝露踏んでクワガタ捕り。ボーボーと聞こえる何かの声。怖くなって諦めて、ドングリばっかり籠の中。
あれは鳩だよ、と婆ちゃんは言った。
うそだ、鳩はあんな鳴き方しないよ、と僕は返した。
朝霧の中の帰り道、にこりと笑った婆ちゃんは、黙って僕の手を握ってくれた。
婆ちゃんの手のひら大きくて、かさかさしてて柔らかで、いつも僕を待っててくれた。

またおいで、と婆ちゃんは言った。
うん、また来る、と僕は笑った。

玄関に並んだ朝顔は、鉢の中で咲いていた。
鉢には三本の棒が立っていて、頭でキュッと結ばれて。じゃれあうようにツルたちが、たくさん花を咲かせてた。
あの日と同じ景色でも、やっぱりどこか違ってた。
三岳の山も蝉の音も、蛙と鈴虫の合唱も、田んぼの苔やあぜ道や、昼を告げるサイレンや、少し曲がった電柱に、昔っからあるイチョウの木。
あの日と変わらぬその場所に、あの日と変わらぬ陽が差して、土手を流れる小川から、カラン、コロンと音がする。
婆ちゃん、来たよ。と呟いて、小さく鳴らした鐘の音は、線香の中で揺れていた。
もう伝えることはできないけれど、手を握ることもできないけれど。今だから分かることがいっぱいあって、聞いて欲しいこともたくさんあって。何から話そうか悩んだけれど、ふっと最初に浮かんだ言葉、

「なあ婆ちゃん、あれはやっぱり鳩だったよ」



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テーマ: 自作連載小説
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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