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お立ち寄り下さり心から感謝いたします。あなたの心に届く小説が見つかりますように。ただいま野いちご/ベリーズカフェの方々と掌編小説企画をやっております。参加しまーす!書きましたー!等のコメントを下の「掌編小説のススメ」のコメント欄に書いて下されば読みに行きます♪

◆開催中の個展
「英国見聞録」の世界展
「中崎町アンサンブル」の世界展

◆連載中の小説
(長編) ボルカノ・ベイ~流星のキャラバン~
・自然豊かな有珠山と洞爺湖を舞台にしたクライシスサスペンス。
・2011.9.16 更新

◆掌編小説
(受付) 掌編小説のススメ
・1000文字小説に挑戦しよう!参加自由です♪

◆完結済みの小説一覧 (これより「野いちご」掲載作品)
(長編) 冒険物語
・古代遺跡をモチーフにした冒険ファンタジー。
・fc2ブログランキング(ファンタジー部門)第一位獲得。第二回ケータイ小説大賞二次選考通過作品。
(長編) カシオペヤ
・宮沢賢治の代表作「銀河鉄道の夜」をテーマにした恋愛ファンタジー。
・第一回ケータイ小説新人賞最終選考作品。野いちごオススメ小説選出作品。
(長編) ハルジオン
・幼なじみとの再会から始まる青春物語。
・野いちごオススメ小説選出作品。
(長編) 紺色の海、緋色の空
・ある朝届いた一枚の絵はがき。そこから僕の"十年前の僕を探す旅"は始まった。
・個人的に気に入っている純文学風春樹風?長編作品。
(短編) インビジブル・ブルー
・「私を犯して」と彼女は言った。「痛み?そんな物は幻よ」とガクは笑った。
・野いちご内で物議を呼んだ純文学挑戦の意欲作。
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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

プロローグ

 僕には、どうしても出せない色があった。限りなく透明に近い青――彼女はそれを、インビジブル・ブルーと呼んでいた。目に見えない青。虚無。虚脱。死へと誘う魔性。あるいは、激しいセックスの後に訪れる、まるで抜け殻のような空っぽの世界と少し似ているかもしれない。その青には、見たものすべてを飲み込み、浄化し、無へと返す圧倒的な"引力"があった。僕は、取り憑かれてしまった。その色に。そしてその色の奥に宿る彼女の世界や、感覚や、光や闇に。彼女にしか表現できなかった色。病的なまでの青。生と死の境界。インビジブル・ブルー。その色を出すためだけに、僕は今もこうして絵を描いている。

 森の中で四肢を投げだすと、鮮やかな緑と透き通るような青が目に焼きついた。瞳孔を開いたまま見つめる。やがて浮きあがる魂。精神と乖離し、地中に溶けていく体。沈む。埋もれる。朽ちる。何も食わず、呼吸すら忘れてこのままこの森の中でのたれ死ねば、僕の魂はあの澄んだ空に昇り、肉体は土に還ることができるのだろうか。否。僕には、そんな生易しい終焉などけしてあり得ない。僕の体は生きたままカラスのくちばしについばまれ、眼球も、髪の毛も、睾丸も、体中の肉や皮を剥がされ、悲鳴だけを残して干からびていくに違いない。死ねばどうなる?そうすれば、僕にもあの破滅的な世界を体現することができるのだろうか。違う。死んだら終わりだ。死んでしまえば、もうけしてあの青を見ることはできない。魂を揺さぶられることもない。
 ……だから、その前に僕は果たさなければならない。
 あの色を出すまでは、死ねない。
 まだ。死ねない。

「ねぇ」
 ブナ林の間から声がした。迷走する魂が霧散し、僕のもとに帰ってくる。たった一言で、女の強い意志と気性を感じ取っていた。僕は一つ、瞬きをした。
「誰?」
 空を見つめたまま、僕は訊ねた。まるで生気の抜けた乾いた声だった。予想どおり返事はない。そんな気はしていた。まず何より、彼女には足音がない。これだけ落ち葉が降り積もる林の中でだ。ゾクリと悪寒を感じた。腐臭。それとはまた少し違う。荒廃と死を予感させる甘美なる媚薬。焦点が合う。意識を呼び覚ますと、声の主は僕のすぐ隣に立っていた。少女だった。十五・六といったところだろうか。中学、あるいは高校。どちらともつかない顔立ちをしていた。ミニスカートから内股の奥が見えた。細くくびれた足だったが、真っ白な肌は瑞々しさに覆われ、太股にはそれなりの肉感があった。ガクが見たら、今すぐにでも縄を掛け、蝋を垂らそうとするに違いない。
 少女の顔には、表情というものがまるでなかった。なにも写さない瞳。ひび割れた唇。長く、ささくれだらけの乱れた髪。背はさほど高くない。むしろ小柄な部類に入るだろう。ただ、脱がせばそれなりに美しい女のラインを持っていそうではあった。
「名前は?」
「レイ」
「どこから来た?」
「あっち」
 無造作に制服のポケットに両手を突っこんだまま、少女は言った。
「消えろ」と僕は言った。
「ここには何もない。血迷ったガキの来る場所じゃないん……」
 言い終わらぬうちに、仰向けに寝転がったままの僕の首筋で、ザンッと何かが地面に突き刺さった。僕は突き立ったナタを横目に、眉ひとつ動かさず溜息を吐いた。僕のものではない、新鮮な血のりで濡れていた。
「私の処女を奪って」
 腕からボタボタと血を滴らせ、うつろな瞳で少女は言った。僕は黙って首筋を掻いた。また一人おかしなヤツが迷い込んできやがった。そう思うと可笑しもあり、神様とやらを呪い殺したくもあった。
「死ぬぞ」
 取り敢えず言っておいた。見る限り動脈を切った様子はない。腕を縛ればすぐに血は止まるだろう。レイと名乗った少女は、覚束ない足取りで腰を落とし、僕のズボンに手をかけた。そのままズルズルと脱がせていく。
「何の真似だ?」
「犯せよ」
「止めとけ。死ぬぞ」
 レイはなおもズボンをずり下げ、だらりと垂れたペニスに唇を寄せた。ささくれた唇と舌の感触とともに、かび臭い異臭が鼻についた。なにせもう何日も風呂に入っていない。それでもレイはその薄汚れたものを喉の奥深くに含み、生気の失せた顔を上下に動かした。その間も、ナタでえぐれた腕からは血が流れ続けていた。白いシャツの袖は真っ赤に染まり、まるで栓の緩んだ蛇口のように、幾筋もの血が指先から滴り落ちていた。
「狂ってやがる」
 冷たく言い放つと、ようやくレイは顔をあげた。その顔は憎悪に醜くゆがみ、年老いた山猫のようにも見えた。僕は、この目の前の少女に少しだけ興味を持った。なぜ僕に執着するのか。何が少女をそこまで駆り立てるのか。そのわけを訊いてみたくなった。レイはどれだけ舌を滑らされても反応しないペニスを吐き出し、苛立たしげに茎の付け根に歯をあてた。鋭い痛みが走った。少女は眉間を寄せ、奥歯を噛みしめた。まるで野良犬だ。
「食いちぎるつもりか?」
 好きにすればいい。と僕は思った。こんな俗世とはかけ離れた場所では、男の性器など毛ほどの役目も果たさない。いっそこの狂った少女に噛み切られるなら、それはそれで構わない。僕はもう一度空を見上げた。相変わらず雲ひとつない青が広がっていた。でも違う。その青は、僕が求める色じゃない。
 ドサリと足元で音がした。少女が倒れていた。出血のせいで貧血を起こしたのだろう。なんとも面倒な話だった。僕はやれやれと体を起こした。素早くレイの袖を引き裂き、肘の上を締め上げる。腕には無数の傷痕があった。リストカットの痕だとすぐに分かった。僕はもう一度やれやれと呟いた。レイを担いで起きあがる。思っていた以上に少女の体は軽く、しなやかだった。
「ガク、今日は早めに頼むぜ」
 あのイカれた同居人の帰りを待ち焦がれたのは、あるいは今日が初めてかもしれないなと思った。股間がやけに冷えた。唾液で濡れたペニスには、少女の歯形がクッキリと残っていた。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

その者青き石を持ちて天に一本の矢を放ち、大地に永劫の安らぎを与えん。
安ぜよ。
されど奢るなかれ。
海神(ワダツミ)の灯未だ消えず。
安ぜよ。
されど忘るなかれ。
八又の炎、永遠(とわ)にあらず。

――伝記『一本の矢』より。


* * * * *


 星暦2006年春。
 三階の窓から見下ろす景色は、すっかり春の陽気を浴びていた。
「ふわ」
 若草色の木々と煉瓦造りの家並みを眼下に眺め、あくびをかみ殺す。大学の構内を流れる風はひときわ穏やかで、まるで小悪魔のように「おやすみ」と囁きかけてくる。
(ダメだわ)
 先ほどから始まった午後一の授業を聞きながら、ファイはうとうとと居眠りを決め込むことにした。夢を見る。それも同じような夢を、最近よく見るようになった。そういえば昔……確か、十歳の誕生日に母親から紺色のペンダントを譲り受けたときにも、同じような夢を何度か見た。
(もう何年も見なかったのに)
 どんどん睡魔に思考能力を奪われていく中で、ファイはそんなことを考えていた。

「三十三年前、当時まだ未開の地だったノズベルク地方の探索に当たっていた飛行艇士が、密林の中にぽっかりと大きな穴が空いていることに気が付いた」
 遠くで声が聞こえる。講義は考古学。これほど心地よい子守歌も他にない。
「のちに調査団が派遣され、その穴は古代アシュテカ文明の遺跡であることが判明した。こらぁ!寝るなぁ!」
 新任教師のロバートが熱弁を振るう。……が、生徒の半分はすでに春の陽気に誘われて頭を垂れ、授業の事などどこ吹く風だ。
 ごほんっ!
 ロバートはわざとらしく大きな空咳をはさみ、にがり顔で続けた。
「その穴はどんどん奥へと広がり、小さな街一つ分くらいの広さの地底都市が形成されていたことが発見された。これがかの有名なサルーラ遺跡だ」
 カツカツと黒板に走らせるチョークの音だけがむなしく響く。
「各国の調査団は遺跡から様々な物品を持ち出したが、考古学者が特に注目したのが様々なレリーフに描かれていた古代文字、つまりエイシェントログだった……おーい、ここ試験に出すぞぉ!」
 手の平でバンと黒板を叩きながらロバートが言うと、ようやく何人かが慌ててノートを取った。
「ログの研究は遺跡発見以前から行われていたが……」
 ロバートの渇に一瞬反応したファイではあったが、
(……無理。眠すぎ)
 机に肘をついたまま、いよいよ耐えきれずに目を閉じた。

 夢……。またあの夢だ……
 ファイは春風を頬に受けながら、最近よく見るようになったあの夢を追いかけた。窓から見渡せるシティの街並みと良く似た煉瓦造りの家並み。少し傷んだ石畳の道。そんなに豊かではないけれど楽しげに暮らす街の人たち。石畳の道を登っていくと、左手に小さなパン屋。そしてその先の小高い丘。
(……ここは?)
 夢の中のファイは、その街の中をふらふらと彷徨うように歩いていた。丘の上にログハウスがある。
(……おかしい、今日はいつもより鮮明に夢を見てる)
 ファイは夢の中で首を捻った。
 ふと、そのログハウスから一人の青年が飛び出してきた。顔は……夢のせいか良く分からない。青年はファイに向かってニコリと微笑み、右手をファイに差し出した。
(誰?)
 ファイは今まで見たことがない夢の続きを見ていることに戸惑った。青年の顔はぼやけたままだ。けれど、なぜかこう、落ち着くというか、とろけるというか……その不思議な感覚に、ファイはドキドキと鼓動を早めた。すると青年が振り向いて言った。
「行こう、ファイ!」
 少し離れて立っている青年の声が、なぜかはっきりと耳に届いた。

 ファイ……
 ……ファイ
 ……
「ファイ・アシュレイ!」
 ファイはその声にはっと目を覚ました。
「はひ?」
 教室がどっと沸いた。
「132ページ」
 いつの間にか横に立っていたロバートが、にやりと意地悪く微笑む。
「すみません」
 ロバートは首をすくめたファイのノートに目を留めると、それひょいと手に取り、
「で、だ。レリーフには……」と、そのままゆっくりと教室をまわるようにファイの席を離れ、授業を再開した。
「はあ」
 ファイは自分のノートを取り上げられた事など気が付かない様子で、ぼーっと視線を窓の外に漂わせた。
『行こう、ファイ!』
 夢の中に登場した顔も素性も分からないあの青年の声が、どうしても耳から離れなかった。

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ジャンル: 小説・文学

プロローグ

 朝から降り続いた雨も夕方には上がり、灯りの落ちた家々を夜の帳が包み込んでいた。
「変わんねえな」
 神社へと抜ける近道を歩きながら、達也は小さく呟いた。雨露に濡れたあぜ道で立ち止まり、辺りを見回す。どこを向いても山また山。よくもこんな田舎町で暮らしていたものだと、今更ながらに感心する。
「まったく」
 達也は舌打ちとともに再び歩き出した。あれほど重くたれ込めていた雲も今はすっかり流れ去り、透き通った紺色の空には大粒の星達が煌めいていた。昔と変わらぬ景色、草の薫り、そのすべてがもどかしい。

 二年前、父親が死んだ。
 高校の卒業式を間近に控えた、ある寒い日の朝だった。
 達也はそれを機にこの町を捨てた。
 頼る宛があったわけじゃない。荷物もない。財布だけをズボンのポケットに押し込み、小さな無人駅のホームで二両編成の列車のタラップを踏んだ。
「遠くへ行こう」
 あの日、達也は車輪を軋ませて動き出した列車の窓から、もう見ることはないであろう田園風景を眺めていた。何の感傷もないと言えば嘘になる。けれど、この町を故郷だなどとは、どうしても思えなかった。
 列車が鉄橋に差し掛かったとき、潜水橋の上に人影を見た。
 雨が降って、水かさが増えると、川の中に潜ってしまうその橋には、それ故欄干がない。
 人影は降りた自転車のハンドルを掴み、大きく肩で息をつきながら、横切る列車を見上げていた。
「……百合子」
 何で?と達也は立ち上がった。
 誰にも言わずに家を出たはずだった。いつものように目覚め、いつものように顔を洗い、歯を磨いて服を着替えた。薄暗い居間にある両親の仏壇の前に立ち、額縁から母親の写真だけを抜き取って財布にねじ込んだ。線香に火をつけ、一度だけ鐘を鳴らした。最後に玄関の鍵をかけたときの乾いた音だけが、いつもとはどこか違って聞こえた。
 駅に向かって歩く途中、連なる多紀連山の稜線に舞い上がったトビが、螺旋を描いて鳴いていたことを覚えている。もうこんな光景も見ることはないのだろうと思った。
 同時に百合子の顔が脳裏をよぎった。
 それと、靖之の顔も。

「……許せ」
 達也は列車の窓に額を押しつけ、遠ざかる人影を身じろぎもせずに見つめた。
 赤錆びたトラス(鉄橋の骨組み)が横切っていくその向こうで、短いセーラー服のスカートが揺れていた。

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プロローグ

 ある朝、「彼女」から一枚の絵はがきが届いた。裏を返すと、そこには雄大なシロナガスクジラが深い海の底を泳いでいた。
 消印はカナダ。ケベックシティ――
 確か、絵本に出てくるような美しい街並みで名高い観光地だ。
 僕は目覚めのブリティッシュ・アールグレイをカップに注ぎ、テラスから神戸の街を見下ろした。
『この街に似ていると思わない』
 いつだったか、早紀がそう言っていたことを思い出す。
「そうかな」と答えると、「そうよ」と怒ったように言ってよこした芝居くさい顔も。
 カナダと鯨。
 何かのメッセージだろうか。
 僕は部屋から古いロッキングチェアを引っ張り出し、絵はがきを水平線にかざした。
 カナダ、カナダの海、大西洋、深海流、氷河、あるいは運河、捕鯨船、海賊、浜に打ち上げられた鯨たち……
 分からない。
 そもそも僕にはカナダや鯨の知識がほとんどないのだから、いくら絵はがきを眺めたところで何かを閃くはずもない。
「やれやれ」
 僕はそれをテーブルに放り投げ、ゆるりと足を組んだ。
 年に一度、僕は必ず十年前の夢を見る。そして、そんな日には決まって「彼女」から絵はがきが届く。この日がまさにそうだった。
 虫の知らせというヤツだろうか。そう言えば最近、大きなクジラが海を泳ぐ姿を何度も夢で見た。その夢はいつもアクリル・ブルーの深い海の奥で幕が開き、決まって一筋の光が海中に差し込むシーンから始まった。
 そこは、唯一光が氷山を通して深海に届く奇跡の場所だった。海中に突き立った氷山は巨大なプリズムのようでもあり、はるか昔に海に没した古代神殿の柱のようでもあった。その奥から姿を現したクジラは、氷山の谷を悠々とすり抜け、次々と群れをなして深海流に身を任せていく。
 なぜか僕もそこにいた。夢の中で僕はクジラの腕に抱かれ、まるで眠るように海の回廊を歩いた。無数の泡粒やプランクトンが、あるものは回廊の中で踊り、またあるものはクジラに飲まれながら、流されるままに遙か南方の赤道を目指していた。やがて視界から光が途絶えると、クジラは美しい声で唄を歌った。心の中に染みこんでいくような、とても優しい歌声だった。
 十五の光源が後方に流れた。
 彼女の歌声は海底に響き渡り、幾星霜もの時を超えて、僕の凍りついた記憶を洗い流していくようだった。
 心地よい脳髄の痺れとともに、僕はいつもそこで目が覚める。夢の終わりに目覚めるのか、それとも目覚めで夢が途切れるのかは分からない。確かなのは、僕は夢の中でクジラの唄声を聴いているはずなのに、朝目が覚めるとそれがどんな音色だったのかをどうしても思い出すことができないことくらいだろうか。
 夢なんて大概そんなものだ。
 もちろん夢だけじゃない。似たような事は幾らでもある。
 そもそも人は完璧じゃない。知らないことの方がはるかに多い。だけどそのことに気づかない。気づかされる機会がないからだ。人は何でも知っているようで実は意外と分かっていない。「君の事は分かっているよ」と言う男に限って、本当のところは何も分かっていないのと同じだ。僕がまさにそうだった。
「あなたに私の何が分かるの?」
 あの日、早紀はそう言って、緋色に染まった教室を出て行った。
 1998年の夏――
 もう、十年も前の事だ。

 あの頃、僕たちは高校生だった。僕たちはまだ子供で、世間を知らなくて、何をしても許される、誰かが護ってくれると心のどこかで考えていた。いや、もしかしたらそう思っていたのは僕だけで、早紀はとっくに気づいていたのかも知れない。
 だから、僕を護ろうとした。
「心配しないで」と微笑んで、僕に優しくキスをした。
「僕が早紀を護るから」
 と僕が言うと、早紀は本当に嬉しそうに笑ってくれた。
 それは、早紀が最後に見せた精一杯の笑顔だった。
 僕はそれすら気づけなかった。早紀の決意を、痛みを、その先に見ていた何かを、ついに最後まで気づいてあげることができなかった。
 僕たちはまだ十五で、待ち受けている未来に何の疑問も持ってなどいなかった。
『僕が早紀を護るから』
 僕は確かにそう言った。でも、その言葉の本当の意味も、重みも、責任も、その頃の僕にはまるで理解できてなどいなかった。ただそんな優しい言葉を口にして、一人いい気になってのぼせ上って、それだけで大好きな人を護れるような錯覚を抱いていた。
 高校一年の夏、僕たちは一人の大人によって、すべての未来を奪われてしまった。その半分はそいつのせいで、残りの半分は他ならぬ僕のせいだった。

 そう、
 僕のせいだったんだ。

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>>story
2012年5月 有珠 鳴動す――
有珠全景北海道洞爺湖温泉旅館で仲居を勤める母と高校生の娘杏。有珠山の麓にある牧場でダービー馬を作ることを夢見る青年遊馬。導かれるように二人は出会い、やがて運命の濁流に呑み込まれていく。長編クライシスサスペンス。

>>cast
登場人物紹介

>>index
Act.0 微動 1) 2)
Act.1 鼓動 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 9) 10)
Act.2 鳴動 1) 2) 3) 4) 5) 6) 7) 8) 9) 10) 11) 12)

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ボルカノ・ベイ 登場人物紹介

浅見杏(あさみあん)
 北海道洞爺湖町に暮らす高校3年生。
 やりたいことが見つからず、進路希望に悩んでいる。カメラ(写真)が趣味。
藤原遊馬(ふじわらあすま)
 メイジ牧場の従業員。静内で牧場を経営していた実家が倒産したため、働きに出ている。
 いつか自分の手でダービー馬を作るのが夢。
浅見雪乃(あさみゆきの)
 杏の母親。洞爺湖温泉街にある旅館「星街」で仲居を勤める。
浅見真一(あさみしんいち)
 杏の父親。札幌管区気象台火山監視センターに勤務する。雪乃とは六年前に離婚し今は独り身。

戸田美月(とだみつき)
 杏の同級生であり良き理解者。獣医師を目指し北大進学を希望している。
三浦洋介(みうらようすけ)
 真一と同じセンターに勤務する新人職員。
田原誠二(たばらせいじ)
 元JRA騎手。今は廃業し、各地を転々としながら荒んだその日暮らしを続けている。
北橋沙織(きたはしさおり)
 雪乃が働く旅館「星街」の美人女将。両親を亡くし、若くして女将となった。
池江千帆(いけえちほ)
 雪乃の仲居仲間。同じく「星街」で働いている。杏とほぼ同い年。
西院秀次(さいいんしゅうじ)
 西院商事の社長。競走馬のオーナー(馬主)でもある。沙織と雪乃を狙っている。
 「競馬はビジネス」を公言し、安くて丈夫な馬を買いあさる成金ブタ野郎。
角居義人(すみいよしと)
 札幌管区気象台火山監視センター長。

ファイアスター
 メイジ牧場産の競走馬。遊馬が取り上げた。
 先天的に体質が弱く脚も曲がっているが、無敗でダービーに駒を進める。
ぴー子
 メイジ牧場の幼駒。ファイアスターの妹。ある出来事をきっかけに、遊馬と杏を引き合わせた。

>>目次へ

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有珠山(Mt.Usu)
山頂所在地:北海道有珠郡壮瞥町

1663年8月12日
微動、鳴動。
同月16日、爆発。
付近の家屋は焼失または埋没し、死者5名。

1769年1月23日
爆発。
火砕流が発生し、南東山麓民家焼失。

1822年3月12日
爆発。
同月23日、激しい震動・鳴動と共に火砕流が発生し、旧アブタ集落全滅。死傷者多数。

1910年7月21日
鳴動、群発地震発生。
同月月25日、金比羅山で爆発開始。次いで金比羅山から東丸山の西に至る間に約45個の爆裂火口が次々に生じ、土砂・岩屑噴出。泥流発生。死者1名。

1944年6月23日
噴火。
8月26日には幼児1名死亡。
この爆発により生成された溶岩ドームは、のちに「昭和新山」と命名された。

1977年8月7日
噴火。
11月16日、水蒸気爆発開始。新火口を次々に形成しながら活動を継続。
翌年10月24日、二次泥流発生。死者2名、行方不明者1名。

2000年3月27日
鳴動、微動、地割れ発生。
同月31日、マグマ水蒸気爆発。
4月以降、複数の火口からは熱泥流が流下したが、死者なし。

※気象台ホームページより抜粋。


 麓には美しい洞爺湖と歴史ある洞爺湖温泉街を抱え、夏には美しい花火が上がる。また、サラブレッドを生産・育成する大小の牧場を持つ有数の馬産地でもある。その風光明媚な眺めはしかし、激しい噴火を繰り返す有珠山との長い共生の歴史の産物であるとも言えた。
 なお、最後に発生した2000年の噴火は、過去30年に一度ほどの頻度で発生している有珠山の噴火としては規模の小さなものであり、「あれが本震ではない」との学説多数。

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prologue

 狭い喫煙室の椅子に腰掛け、浅見はまるで溶岩のように赤黒く焼け朽ちていく煙草の先を見つめていた。ゆらりと立ちのぼった一筋の煙が、空気清浄機に吸い込まれ、消えていく。
「哀れなもんだ」
 煙に話しかけるように呟くと、浅見は作業服の胸ポケットに突っ込んでいた一枚の写真を取りだした。切れかけた蛍光灯がまるでモールス信号のようにチカチカと消えては灯り、写真に影を落とす。
「けど……」
 浅見は乾いた笑いをこぼし、すり切れた写真を再びポケットにしまい込むと、ぬるくなった缶コーヒーを一口だけ飲んだ。
「行く宛があるだけマシか」
 四畳半ほどのガラス張りの部屋に空気清浄機が一台、丸椅子が五脚、それに観葉植物と安っぽい壁掛け時計が一つ。喫煙室の外には薄暗い廊下が続き、ほんの二十歩ほど歩けば、浅見が勤務する札幌管区気象台・火山監視情報センターの監視室に突き当たる。人影も物音もない。いつもと変わらぬ静かな夜だった。

 欠伸をかみ殺して時計を見上げる。交代まであと五時間。陽の長い北海道とは言え、まだ夜明けまでには時間があった。浅見は二本目の煙草に火を付け、空気清浄機の上に放り投げてあった二日前のスポーツ新聞に目を向けた。
『ファイアスター絶好!/日本ダービー最終水曜追い切り』
 紙面のトップで躍動する栗色の競走馬の写真に目を細め、「もうそんな時期か」と呟く。四十という年齢のせいだろうか、近頃どうも時間に対する感覚が鈍ってきたように思う。
「今日は5月26……いやもう7か」
 浅見は新聞の端に記された発行年月日を見つけ、指を折って時間を遡ってみた。妻と離婚して六年。当時まだ小学生だった娘も今年で十八才になる。きっと今頃は受験勉強に明け暮れているのだろう。
「早いもんだな」
 次々と自分を追い越し、過ぎ去っていく時間の流れに、浅見は軽い目眩を覚えた。
 空になった缶コーヒーをゴミ箱に放り投げ、最後の一服を燻らせていると、突然監視室の扉が大きな音を立てて開いた。
「浅見さん!」
 センター内に残っていた若い三浦監視員の声が、凛と冷えた廊下に響いた。
「どうした?」
 喫煙室から顔を出した浅見に、「ちょっと……」来て下さいと三浦の顔が訴えている。浅見は手荒に煙草をもみ消し、折れた襟を直して喫煙室を出た。
「地震か?」 自然と声が低くなる。
「ええ。と言ってもまだ無感地震のレベルではあるんですが」
「場所は?」
「内浦です」
 内浦湾は別名噴火湾とも呼ばれるほど、日本でも有数の火山地帯である。湾南端の恵山に始まり、駒ヶ岳、対岸には今なお噴煙を上げる有珠山が見え、山向こうに羊蹄山や樽前山が峯を連ねている。地震そのものは珍しい事じゃない。
「海溝型の可能性は?」
「ないです。海底の地震計はピクリともしていません」
 二人は足早に肩を並べて歩きながら、監視室の奥にある対策本部に向かった。リノリウムの床に足音が吸い込まれる。
「内浦のどこだ?」
 本部のドアを開けると、既に備え付けの特大パネルが起動していた。パネルは九分割されており、一つ一つのモニターに、監視カメラの映像や地震計の記録が映し出されている。
「有珠です」
 インパネの前に腰を下ろした三浦が、慣れた手つきでキーを叩きながら答えた。途端に浅見の足が止まった。特大パネルに一つの画像が拡大される。グラフ(地震記録)だ。数分前の一瞬だけ、針が上下に振れている。
「今映しているのが北屏風山地震計です。で、こっちが壮瞥公園、これが虻田泉北……浅見さん?」
 怪訝そうに振り向いた三浦に「何でもない」と短く返し、浅見はモニターに映し出された地震計の記録に目を向けた。三浦がキーを叩くたびに切り替わっていく地震計の観測記録を、浅見は食い入るように見つめた。有珠山周辺に設置された地震計は、協力機関である北海道大学のものと併せて五基。それらすべてが、ごく小さな揺れを敏感に感じ取っていた。
「……まずいな」
 浅見はザラリと無精髭を撫でた。高感度の地震計は、観測小屋の近くで工事が行われたり、大型車両が走っただけでもその揺れを拾ってしまう。しかし、すべての地震計が同時に動いているとなると、まるで話は別だった。
「まさか、ですよね」 三浦が声色を落とす。
「分からん。ただ、有珠は噴火の前に必ず知らせをくれる」
「でも、前回の噴火からまだ十年ですよ。いくらなんでも」
 ふと三浦が言葉を切った。静寂の中、モニタの映像だけが煌々と壁を照らしている。思い出したのだ。離婚した浅見の奥さんと子供さんは確か今……
「……あの」
 言いかけたその時、モニター内の地震計が一斉に針を踊らせた。

「あ!」 と三浦が短く叫んだ。
 浅見は思わず椅子から腰を浮かし、固唾を飲んで対策本部の壁に据えられた特大パネルを見上げた。短いビープ音と同時に、内浦湾有珠山周辺に「震度1」のマークが広がっていく。あっという間の出来事だった。
「有感地震……」 三浦が呟いた。
 浅見は地震計のモニターを見つめたまま唇を噛み、傍らで立ち尽くしている三浦に指示を出した。
「所長に連絡だ」
 心なしか声が震えている。
「……分かりました」
 三浦は唾を飲み込んだ。
「それからすぐに近隣市町に連絡を入れろ。場合によっては警戒レベルを引き上げることもあり得る」
「はい」
 頷き、言いにくそうに顔を上げる。
「あの、奥さんは確か」
「急げ!」
「はいッ!!」
 叫ぶやいなや、三浦は弾かれたように監視室を飛び出していった。

 再び戻った静寂の中で、浅見は一人たたずんでいた。カチ、カチと鳴る掛け時計の針の音が、ひどく耳に障った。それ以外、何の音も聞こえなかった。壁のモニターがやけに眩しい。
「くそ!」
 舌打ち混じりに椅子に腰を落とす。目を閉じると視界も消えた。静寂と暗闇の中で、浅見は美しく芯の強い元妻と、いつもパパ、パパと言って抱きついていた娘の顔を思い浮かべた。目を開くと、無機質な対策本部の風景が広がっていた。カラカラに喉が渇いていた。
「……雪乃」
 浅見は机に片肘をつき、親指の爪をしきりに噛んだ。いつも妻に窘められていた浅見の癖だった。
「杏……」
 浅見は胸ポケットを握りしめ、今はまだ小刻みに走るだけの地震計の針を、祈るような思いで見つめ続けた。

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Act.1 ―鼓動―

(一)

 新緑の葉を揺らす白樺の林の向こうに、赤茶けた有珠の山肌が見える。麓に広がる洞爺湖の湖面は、見事なまでに晴れ渡った壮瞥の空を映し出していた。洞爺とは「ト・ヤ」アイヌ語で湖の岸を意味する。
「……高いね」
 杏が目を細めると、短いセーラー服のスカートの裾がふわりと揺れた。
「春ってこんなに高かったっけ?」
「何が?」
「空」
「……さあ」
 ふあ、と美月が欠伸をする。二人は湖畔の芝生に寝転がったまま、何をするでもなく空を見上げた。
「で、どうすんの?」 美月が隣の杏に目を向ける。
「そうだなあ」
 杏は空の真ん中に一枚の紙をかざし、そのまま腕を放り投げた。
「分かんない」
 お手上げとばかりに溜息をつく。
「けど来週だよ、進路指導。それまでに書いて来いって先生言ってたし」
「そうなんだけど」
 それっきり黙り込む。希望進路、と書かれた紙を、杏はもう一度空にかざした。風にそよぐ野草が頬を撫でる。新学期が始まったとは言え、道外に比べればずいぶん寒い。
「美月はいいよね」
「何が?」
「やりたいことがあってさ。北大受けるんでしょ?」
 超難関だよ、と口をとがらす杏に、美月は「まあね」と苦笑いを浮かべた。
「受かるとは思ってないけど、獣医師になるのが夢だから」
「いいよね。そういうの」
「杏は?」
 白樺の木々を渡り飛ぶ雀を目で追いながら美月が尋ねた。
「何かないの?夢」
「夢、ねえ」
 杏は少しだけ体を起こし、今なお白煙を立ち上らせる昭和新山の頂を見上げた。夢、夢と呟いてみる。……が、それっきり。かき上げた栗色のショートボブがむなしく肩に落ちた。
「そうだ」
 隣で寝ころんだまま、美月が艶のある黒髪をくるんと指で弾いた。
「写真は?」
「写真?」
「そう。昔から好きだったっしょ?」
「あー……カメラね」
 杏は再び芝生の上に四肢を投げ出し、ため息をこぼした。
「あんなの趣味にもなりゃしないわ」 無理無理と首を振る。
「そうかなあ。私は杏の撮る写真好きだけどな」
「そう?」 チラと横目で美月を見る。
「うん。何て言うかこう……被写体に対する愛情!みたいなさ」
「何それ!」
 いいよー、可愛いよー、などと言ってカメラマンのふりをする美月に、杏は声を立てて笑った。
 ――とその時、
「危ない!」
 頭の方から声がしたかと思うと、突然目の前が真っ暗になった。正確には、仰向けの視線の先にあった空を大きな何かが遮った。ザン、と大地を蹴る音と同時に、剥がれた土草が宙を舞う。
「わ!」
「何今の?!」
 慌てて二人が起き上がると、それはゆっくりと振り向いた。春風にたてがみが揺れる。確か栃栗毛と言っただろうか。美しい金色の髪だ。大きな瞳が杏を見つめている。まだ幼い。針金のような細い足でたたらを踏み、ふわりと尻尾を振る姿は、まるで悪戯好きの子供だ。
「可愛い!」
 美月が思わず喚声を上げた。視界を遮ったのは、二人を跨いで飛び越えた子馬だった。
「どいて。危ないから」
 セーラー服の肩を掴んだ大きな手が、ぐいと杏と美月を押しのけた。男に続いて、ツナギに軍手をはめた数人の男達が両手を広げ、遠巻きに子馬を囲む。
「ちょっと」
「危ないよ」 言いかけた杏の体を別の手が遮った。
「下がって」
 男は静かに、しかし重い声で杏と美月の顔を交互に見た。思いの外若い。杏と同じか、あるいは少し上くらいだろう。短く刈った頭に、他の男達と同じツナギを着て軍手をはめている。どうやら皆近くの牧場の従業員のようだ。
「何してるの?」 と杏が尋ねる。
「子馬が放馬したんだ」
「ほうば?」
「逃げ出すことさ」 青年は肩をすくめた。
 男達があやすようなかけ声で子馬を牧柵の隅に誘導していく。子馬は尻っぱねを繰り返していたが、やがて観念したのか大人しくなった。
「良かった」青年がほっと胸をなで下ろす。
「よし。戻ろう」
 子馬を引いた無精髭の男が皆に声をかけた。最初に杏を押しのけた男だ。ブルル、と子馬が鼻を鳴らす。その仕草はまるで「ちぇ、つまんない」とでも言いたげだった。
 ぞろぞろと男達が引き上げていく。そのうちの一人、あの無償髭の男が腰に手を当て、杏と美月の前に立った。
「どこから入った」
「どこって?」
「ここはうちの牧場の敷地だ。勝手に入っちゃいかん」
「勝手にって言われても」
 杏は美月と顔を見合わせた。確かに柵らしき物はあった。けれど、所々壊れていて簡単に入って来れたのだ。それに、ここに来たのは一度や二度じゃない。
「二度と入るな。いいね」
「はあい」 渋々頷く。
「行くぞ、遊馬」 と歩き出した男の背中に「べえ」と杏は舌を出した。
「いい人なんだけどね。馬のことになると怖いんだ」
 アスマと呼ばれた青年が頭を掻く。
「じゃ」
「あ、ちょっと」 青年の手を杏が掴んだ。
「名前は?」
「藤原アスマ。遊ぶ馬と書いて遊馬」
「そうじゃなくて」
「何?」 遊馬が聞き返す。
「あの子の名前」
「ああ」 杏の視線の先を見て今度は頷いた。
「ピー子だよ」
「ピーコ?」
「よく泣いてたんだ。ぴーぴーってね。今じゃその面影もないけど」
 楽しそうに遊馬が笑う。杏より頭一つほど背が高いだろうか。日焼けした顔に引き締まった体。それに、よく見ると案外可愛らしい顔をしている。
「女の子なんだ」
「ああ」
「また来ていい?」
「ちょっと杏」
 何言ってるの?と美月が杏をつつく。
「あははっ」
 遊馬はからりと笑った。目深にかぶったキャップの下で白い歯がのぞく。
「ダメだって言ったろ」
「遊馬は言ってない」
「ダメ」
「ケチ」
「不法侵入だぞ」
 膨れる杏に苦笑いをこぼし、遊馬は「じゃ」と二人に手を挙げた。白樺林の奥の湖面がさざ波を立てる。
「そうだ」
 背を向けた遊馬が振り返った。
「君、名前は?」
「教えない」
「あ、そ」
 青空の下、カラリと笑う遊馬の頭上を、有珠の山から立ち上がった雲がゆっくりと流れていった。

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(二)

 嵐がやってきた。
 と言っても、台風が上陸したわけでも、アイドルグループが来たわけでもない。
「雪乃さん!」
 見習いの若い仲居が、バタバタと廊下を走って顔を出した。
「あの今……」
「千帆さん、廊下を走らない」
「あ」 いけない、と千帆が舌を出す。
「もう」
 雪乃はクスリと微笑み、夕膳の盛りつけをしていた手を止めた。
「お見えになったの?」
「あ、はい」
「じゃあ行きましょう」
 後のことを板前と若い使用人に任せ、雪乃は割烹着を外した。丁寧にニスの塗られた板間の床を、足音を殺して歩く。照明を落とした廊下の柱には等間隔に行燈が吊され、けして派手ではない生け花や水墨画をしっとりと照らしている。
「誰なんです?あの人」
 雪乃の背中に千帆が尋ねた。
「西院商事の社長様よ」
「社長!」
 取り敢えず驚いてから、なるほどと頷く。
「いかにもって感じ」
「ダメよ。そういう言い方」
「分かってますよ」
「どうだか」
 娘と変わらない年頃の千帆に、つい雪乃の目元がほころぶ。
 趣のある廊下を少し行くと、目の前に手入れの行き届いた日本庭園が広がり、その向こうに洞爺湖に浮かぶ中島が見えた。夫と別れ、この「星街」の仲居として働き出してはや六年。古い小さな旅館ではあるが、雪乃はここの暖かい雰囲気がたまらなく好きだった。吹き抜けになったロビーに出ると、すでに女将の沙織が出迎えに立っていた。
「遅くなりました」
 着物の裾を整え、雪乃がその隣に並ぶ。
「お夕膳の支度は?」
「滞りなく」
「そう」
 ご苦労様、と沙織が頭を下げる。微かなお香の匂いが、品の良い横顔に花を添えるようだ。手を止めた仲居達が雪乃の隣に並び終わるのとほぼ同時に、正面の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
 沙織が深々とお辞儀をする。
「いらっしゃいませ」
 女将に続き、雪乃以下の仲居達が順に頭を下げた。
「ああ、よろしゅう頼むで」
 脂ぎった頭をした男が、煙草をふかしながら敷居を跨いだ。今時流行らないダブルのスーツに、胸には金色のエンブレムが光っている。
「何あれ?馬のバッジ?」
 西院社長を初めて見る千帆が、隣の仲居に小声で尋ねた。
「馬主さんなの」
「へえ」 千帆が呆れ顔で呟いた。「まさに成金オーナーてヤツですね」
「ちょっと」
 聞こえるじゃない、とつつかれる。
「いかがでしたか?」
 玄関に履き物を揃えた沙織が、西院の鞄を受け取りながら尋ねた。
「さっぱりやな。大種牡馬のサンデーサイレンスが死んでもてから、どうにも小粒ばっかりでいかん」
「そうですか」
「ま、わし好みの丈夫そうな仔が二三頭おっただけましやがな」
 ガハハと笑って煙草をもみ消した手が、女将と雪乃の手を握りしめる。
「うわ。何あれ」
「はいはい、行くよ」
 目をむいている千帆の背中を、先輩の仲居が追い立てた。

 五月下旬になると、札幌競馬場で競走馬のトレーニングセールが開催される。そこでは二歳馬が取引され、早ければ数ヶ月後にはデビュー戦を迎えることになる。言わば、即戦力のセリ市だ。もちろん、デビュー間近のセリ市とあって、超が付くような折り紙付きの良血馬が売れ残っていることはまずない。残り物、と言えば聞こえは悪いが、それでもこのセール出身で大レースを勝った馬もいる。
 「競走馬はビジネス」を公言し、使い捨ての雑巾のように所有馬を走らせては賞金を稼がせる西院にとって、このトレーニングセールは「安くて丈夫な馬」を買い叩く絶好の機会なのだ。当然、力の入れ具合が違う。毎年セールの一ヶ月前のこの時期に北海道を訪れ、下見がてらに牧場を巡っては唾を付けるのだ。そして、決まって最後にこの洞爺湖温泉に足を運ぶ。札幌から百キロも離れた「星街」に通う理由は、美しい女将と仲居に会うためだとのもっぱらの噂だった。

「スケベじじい」
 話を聞いた千帆は、上機嫌で廊下を歩く西院に向かって呟いた。もちろん、聞こえない声で。

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 陽炎のように揺れる夕陽が洞爺湖の湖面に沈む頃、旅館「星街」はにわかに慌ただしさを増した。来館したお客様の案内や夕膳の支度、それに宴会の準備。仲居に休息の時間などどこにも無い。そんな折、一本の電話が入った。
「女将さん!」
 たまたま取り次いだ千帆が沙織を呼んだ。
「どうしたの?」 暖簾の奥から沙織が顔を出す。
「十名様でご宴会の申し込みなんですけど、どうしましょう?」
「いつ?」
「来月の29日です」
「ずいぶん先のお話ね。いいわ、お受けして頂戴。時間は?」
「えっと」
 慌てて千帆がメモに目を落とす。
「六時だろうです」
「藤田に伝えておくわ」
 沙織は慌ただしく手を振ると、板長の藤田がいる厨房へと姿を消した。
「5月29日って何かあるんですか?」
 千帆は相手に予約を承った旨を伝えて電話を切ったあと、側にいた雪乃に尋ねた。
「さあ……」 雪乃が首を傾げる。
「さっきの予約の話よね?」
「ええ」
「どちら様?」
「えーっと」 千帆はもう一度メモを取り出した。
「メイジ牧場様です」
「ああ」
 それなら、と雪乃は頷いた。
「もしかしたら、日本ダービーの開催日じゃないかしら」
「ダービー……」
 千帆は聞いたことがあるような無いような、釈然としない様子で眉をしかめ、最後に「何でしたっけ?」と雪乃に尋ねた。
「競走馬のナンバーワンを決めるG1レースよ。出走できるのは生涯一度。競馬に携わる人たちなら誰もが夢見る大舞台ね」
「へえ」
 千帆はさして興味なさそうに相づちを打ち、メモを閉じた。
「わざわざダービーの日に予約をくださったって事は、たぶん牧場の生産馬が出走を予定しているのよ」
「そんなに凄いことなんですか?」
「だって、年間数千頭も生まれるサラブレッドの中から、ダービーに出られるのはたったの十八頭よ」
「へえ!」
 千帆が目を丸くする。いくら競馬に興味がないとはいえ、さすがに驚いたようだ。
 とその時、行燈が灯る廊下の奥から、「おーい」と人を呼ぶしゃがれ声が聞こえた。雪乃と千帆が顔を見合わす。
「おおーい」
 今度はハッキリと聞き取れた西院社長の声に雪乃が踵を返した。
「はい!ただいま」
 すり足で奥の部屋に向かう。着くなり、大柄な西院が待ちわびた様子で雪乃を手招きした。
「どうかなさいましたか?」
 雪乃が丁寧に頭を下げると、西院は「いや」と言葉を濁して首を撫でた。
「食事はまだか?」
「ただいまご用意してございます。間もなくお持ちできるかと思いますが」
「一緒に酒を頼む。二合でいい」
「かしこまりました」
 雪乃が部屋を出ると、夕膳の支度が整ったばかりの厨房で、数人の仲居が慌ただしく動いていた。
「雪乃さん、西院さんの分お願いしてもいいかしら」
 その中に混ざって、女将の沙織が申し訳なさそうに雪乃を見た。相手は一癖も二癖もある西院だ。他の仲居では務まらない。何より、あの客には関わりたくないというのが大方の仲居の気持ちなのだ。
「ええ」
 雪乃は快く引き受けると、二合徳利に酒を注ぎ、香りの良い夕膳を持って再び西院の部屋へと向かった。
「お待たせいたしました」
 雪乃が部屋に入ると、西院は浴衣に着替えて縁側のソファに身を沈めていた。
「おお」
 吸いかけの葉巻を灰皿にもみ消し、ユラリと立ち上がる。
「ところで雪乃」
 手際よく膳を並べていた雪乃の名を馴れ馴れしく呼び捨て、西院が近づいた。
「便所から戻る途中に聞こえたんやが、どこぞから電話があったんか?」
「……はい」 一瞬手が止まった。
「どこからや?」
「それは」
 雪乃は捻るようにして体をずらし、再び手を動かした。
「近くの牧場様から宴会のご予約をお受けしただけです」
「どこの牧場や?」
 ドスと畳に腰を落とした西院の顔が、どこか楽しげに歪んでいる。嫌な人だと思った。この男は分かっていて尋ねている。
「メイジ牧場様です」
 雪乃が答えると、西院は堪えきれない様子でくくっと喉を鳴らした。
「ああ、あそこか。そういやこの旅館の対岸あたりやったかな」
「ええ。……ではこれで」
「待ちや」
 目を伏せたまま立ち上がろうとした雪乃の手首を西院が掴んだ。
「あの」
 まだお食事の準備が、と言いかけた雪乃を半ば無理矢理座らせ、西院はお猪口をぐいと突き出した。
「一杯だけ付きおうてくれんか」
「……はい」 溜息を殺して座り直す。
「しかし何やな」
 西院はそれに気付いた様子もなく、嬉々とした顔で話しだした。
「相変わらずあいつらは頭でっかちな馬ばかり作っとるようやな。時流がどうだ、血統がこうだなどと言うとらんと、丈夫でそこそこ走る馬だけ作っとりゃええもんを」
 くくっとまた喉を鳴らす。
 西院は注がれた酒を一呑みし、「馬鹿めが」と吐き捨てた口端を歪めた。
 雪乃も詳しくは知らないのだが、西院とメイジ牧場の間には、埋めることのできない深い溝があるらしかった。なんでも、メイジ牧場が育てた馬を買った西院が、その馬をボロボロになるまで使い続けた挙げ句、レース中の事故で殺してしまったのだとか。以来、メイジ牧場は西院と口をきかないどころか目も合わさないという。旅館内でも有名な話で、メイジ牧場の従業員の前で西院の名前を出すことは固く禁じられていた。
「そろそろ戻りませんと」
「ああ。すまんかった」
 西院はしおらしく詫びてお猪口を置くと、立ち去りかけた雪乃の背中に蛇のような視線を這わせた。
「ときに、別れた旦那は元気か?」
「え?」
 まったくの不意打ちだった。
「……さあ」
 返事に窮した雪乃は、必死に西院との今までの会話を思い起こしていた。
 おかしい。おかしいと心の中で呟く。
 娘の話はしたことがあったが、旦那の話など一度もした覚えがない。ましてや別れたことなど話すはずもない。雪乃は気付かれないように息を整え、足元の畳を見つめた。
「もう随分連絡を取ってませんから」
「何年になる?」
「六年です」
「そんなに経つのか。娘は?確か杏ちゃんだったかな。何歳になった?」
「高校三年生です」
「早いもんや。……で、原因は浮気か」
「え?」
 突然話を引き戻された雪乃は、思わず尋ね返した。
「離婚の原因や。こんなええ女捕まえといてまだ余所で女抱くたあ余程の甲斐性持ちかええ男なんやろ」
「……失礼します」
 雪乃は後ろ手で戸を閉めた。西院はまだ何か話し足りない様子だったが、そんなことはどうでもよかった。鼓動が鋼のように打っている。
『浮気か』
 と言った西院の声が、まるで亡霊のように肌に絡まり、毛穴という毛穴を塞いでいる。手で胸を押さえ大きく息を吸う。嫌な汗が背中を伝う。おそらく西院は肯定と取ったろう。夫の浮気が原因で離婚したのだと。雪乃は足早に廊下を歩いた。一刻も早く西院の部屋から離れたかった。

『……雪乃』
 この六年間、必死に忘れようとしてきた「彼」の声が不意に脳裏をよぎった。
『一緒に来てくれないか』
 ダメ、と首を振る。彼のことはもう二度と思い出したくなかった。彼のせいだとは思っていない。ただただ自分が弱かったのだ。自分のせいで娘は父親を失い、夫は大切な家族を失った。

「雪乃さん、ちょっと」
 厨房から板長の藤田が顔を出した。雪乃は救われた思いで顔を上げ、いつものように割烹着を締め直して西院の部屋を後にした。

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(四)

 道央自動車道を札幌から南に下り、苫小牧から今度は西へと進路を変える。けして広くはない社用車の後部座席で、浅見はノートパソコンを開いた。と、こう言えば聞こえはいいが、所詮現地視察用のライトバンだ。硬いスプリングのせいで揺れる車内では、どうも巧くキーが叩けない。浅見は眼鏡を外して溜息をついた。
「今日の資料ですか?」
 三浦が運転席からバックミラーを覗く。
「ああ」 浅見はほぐすように首を回し、窓の外に目を向けた。
 四月の終わり。路肩の草木が淡く膨らみ、ようやくこの北の大地にも道外から一月ほど遅れて春の兆しが差込んできた。高速の路肩に車を止め、何やら土手を見下ろしている家族の姿が通り過ぎていく。ふきのとうや土筆が芽吹くにはまだ早かろうに。
「あとどれくらいだ?」
「一時間ほどで着くと思います。途中で昼にしますか?」
「いや、直接行こう」
「りょーかいです」
 三浦はあと五キロと表示されたパーキングエリアの看板を横目に、軽くハンドルを握り直した。
「酔わないんですね。車」 チラと振り返る。
「まあな。昔から乗り物酔いはしないタチでな」
 浅見は午後の講演に使う動画のチェックを行いながら顔を上げた。
「船に乗ってたって本が読める」
「えー!僕はダメっす。運転している分には大丈夫なんですけどね」
 うえー、と三浦が舌を出す。
「持って生まれた体質だろうな。両親には感謝してるよ」
 浅見は苦笑いと共にパソコンを閉じ、電源が切れたのを確認してからユーエスビーメモリを抜き取った。気象台勤務という仕事がら、浅見くらいの年齢になれば、小さな講演を依頼されることが年に数回ある。今日もそう。2000年に発生した有珠の噴火について講演を行うようにとセンター長から指示を受けたのが三日前のこと。すぐに準備にはかかったものの、どうにも浅見の腰は重かった。
「有珠……か」
 浅見はメモリを胸ポケットにしまい、鞄から講演案内のチラシを取り出した。
『有珠山・噴火の歴史』
 そう題された講演題目の下には、「-2000年噴火を振り返る-」という副題が記載されていた。会場は洞爺湖ビジターセンター。かの洞爺湖サミットの開催にあわせて有珠山の麓に整備された、環境庁の外郭施設だ。
「そうだ」
 三浦が今思い立ったと言った様子でハンドルを叩いた。
「今夜はパーッと洞爺湖温泉にでも浸かって帰りましょうよ」
「ん……ああ」 そうだな、と言葉を濁す。同時に、こいつにも話しておいた方がいいのかも知れんな、と浅見は心中で呟いた。
 他でもない。洞爺湖は、六年前に別れた妻と娘が暮らす町なのだ。その後一度だけ仕事であの町を訪れてから、おそらくもう三年は経つ。正直、複雑な気分だった。
 浅見を乗せた車は、まだ寒気の残る春空の中を軽快に飛ばしていた。時折体を揺らす振動が、単調な外の景色とともに瞼の上にのしかかってくる。
「もう春だな」
「そうですね。今年は例年より少し早いみたいですよ」
 ところで、と三浦は続けた。
「資料はもういいんですか?」
「ああ。前に使った講演のデータが残ってたからな。半分はその使い回しだ」
「そっすか。まあ有珠の資料なら腐るほどありますしね。2000年の噴火ならなおさらですよね」
 三浦はいつになく饒舌だ。
「もしかしてお前」 浅見がニヤリと運転席を覗き込む。
「眠いのか?」
「だ、大丈夫っすよ」
「そうか」
 すまんな、と形だけ誤っておいて、浅見は後部座席に身を沈めた。
 飛行機雲が見える。空は遠く、青く。どこまでも続く真っ直ぐな道は、まるで水平線の彼方に吸い込まれるようにゆっくりとカーブを切る。

 オホロという言葉がある。
 アイヌ語で「永遠」を指す言葉で、元々ホロとは「大きい」という意味であるらしい。漢字では幌が充てられた。札幌や幌別など、今でも道内の地名に古(いにしえ)の息吹を感じることができる。長い長い年月の中で、人々は独自の文化を育んできた。
 左手に太平洋、右手に樽前山の雄大な姿を眺めるうちに、やがて室蘭の地球岬のヘサキが見えてくる。白樺の林を越え、トウモロコシ畑を眼下に見下ろす。岬を回れば、目の前にはまた違った海の色が現れる。内浦湾だ。大きな入江のように両手を広げたこの湾は、かつてこの地を訪れたイギリス人が「ボルカノ・ベイ」と表現したことから、噴火湾とも呼ばれていた。淡くて深い。どこか哀愁の漂う風景を思わせるのは、あるいは浅見の感傷ゆえかもしれない。浅見が目指す洞爺湖は、この噴火湾の一画にあった。

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 車が虻田洞爺湖インターチェンジに向かうにつれて、今なお白煙を噴く有珠の山影が近づいてくる。高速を降りればもう、目指す洞爺湖ビジターセンターまでは十分ほどの距離だ。
「早く着いたな」
「ですね」 ウインカーを出しながら三浦が答えた。
「やっぱり先に昼にしましょうか」
「ああ、そうだな」
「いいところ知ってます?」
「いや……」
 浅見が首を捻っていると、三浦はハザードを付けて車を路肩に止め、カーナビのパネルを操作しはじめた。
「何してるんだ?」
「検索ですよ。カーナビに登録されている食事場所を表示できるんです」
 知らないんですか?と振り返る三浦に、浅見は肩をすくめて見せた。
「便利なもんだな」
「今時知らない方がどうかしてますよ」
 めぼしい店を見つけた三浦は、目的地にセットして車を発進させた。国道230号線を洞爺湖沿いに走ると、白樺林の向こうに白い柵が見えた。林は断続的に途切れ、その都度人気のない交差点が姿を現す。しばらく進むと、道の片隅に「メイジ牧場」と描かれた大きな看板が見えた。
「あ、馬だ」
 不意に三浦が車の速度を落とした。引退したサラブレッドだろうか、放牧された馬が数頭草をはんでいる。
「そういやお前、競馬やるんだったな」
「ええ、好きですよ。浅見さんはやらないんですか?」
「昔はやったがな」
「さてはオグリキャップ世代っすね」
「まあそんなところだ」
 浅見が苦笑いを溢すと、三浦はおもむろに車を止め、ダッシュボードから競馬新聞を取り出した。
「どうした?」
「いや、メイジ牧場って結構大きな牧場じゃないですか。メイジラモーヌ、メイジティターンにメイジライアン」
「懐かしいな」
「先週の皐月賞にも何頭か送り出してたんじゃなかったかな」
 そう言って競馬新聞を食い入るように見つめる三浦の目が輝いている。浅見は呆れ顔で後ろから三浦の頭を軽く小突いた。
「おい、飯はどうした?」
「行きます行きます。ちょっとだけ待ってくださいよ」
 そう言った三浦の声が、突然「ああ!」と裏返った。
「何だ?」
「そうか……こいつか」
 一人納得した様子の三浦が浅見に新聞を差し出した。出走馬に関する様々な情報が記載された「馬柱」と呼ばれる一覧の中に、確かにメイジ牧場産の馬の名前がある。
「……ファイアスター」
「そうです。二戦二勝の無敗で皐月賞に挑んだんですけど、直前に熱発を起こして回避したんですよ」
「体が弱いのか」
「ええ。でも出走したレースは二戦とも圧勝してるんです」
「ふうん」
 浅見は敢えて興味なさげに相づちを打った。この手のタイプは、熱く語り始めると止まらなくなるのだ。
「つれないっすねえ」
 案の定出鼻をくじかれた三浦は、助手席に新聞を放り投げ、再び車を走らせた。
「やれやれだ」 浅見は聞こえない声で溜息をついた。
 浅見が乗り物酔いしないのも、ファイアスターという競争馬の体質が弱いのも持って生まれた体質なら、三浦のこの性格もまたそうなのだろうと思う。よく言えば人懐っこい。今時の若者らしく物怖じしないし、仕事もしっかりこなす。ただ、縦社会の中でそれは諸刃の剣だ。たまたま浅見の下に配属されたからいいようなものの、もし上下関係にうるさい上司の下についていたら、半年ともたなかったに違いない。
「ラーメンでいいですか?」
「ああ」
「味は保証しませんけどね」
「何でもいいよ」
 鼻歌まじりにハンドルを握る三浦を横目に、浅見は思わず苦笑いを溢した。
 ふと、牧場の柵から仔馬を見つめる少女の姿が遠目に見えた。高校生くらいだろうか。面影までは分からないが、膝丈ほどのセーラー服姿は、中学生にしては大人びているように見えた。娘の顔が脳裏をよぎった。六年前に小学五年生だった杏も、今では高校三年生になっているはずだった。いつも腕にしがみついてきた。パパ、パパと言って離れなかった。脳裏に浮かんだのは、その頃の幼い娘の笑顔だった。
 親権は妻に譲った。夜勤の多い気象台勤めでは、とても男手一つで育てていく自信がなかった。以来、一度も連絡を取ったことはない。知人伝いに洞爺湖町で暮らしている事だけは聞いていた。二人は今どうしているんだろうか。元気でやっているんだろうか。六年経った今でも、そう思わない夜は一日たりとない。

「……浅見さん?!」
 浅見は三浦の声に我に返った。
「何だ?」
「何だじゃないですよ。電話、さっきから鳴ってますよ」
「え?」
 ハッと意識を戻すと、鞄の中から携帯の着信音が聞こえてきた。慌ててディスプレイを開く。「角田さん」という文字が浮かんでいる。講演会場の事務担当だった。
「はい、浅見です」
 浅見は電話に出ながら、もう一度牧場に目を向けた。ブナの木々が流れ去っていく。遥か遠くに白い柵が見えた。少女の姿は、もう見えなかった。
「それで結構です。ええ、プロジェクターだけあれば……」
 手帳にメモを走らせる。その横顔はもう、いつもの浅見の表情に戻っていた。
 車は洞爺湖の湖畔をゆっくりと走っていく。湖面に反射した陽射しが、無数の燐光となって浅見の横顔に降りそそぐ。
「はい。宜しくお願いします」
 答える浅見の窓の向こうに、雲と白煙に包まれた有珠の山肌が見えた。

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(五)

「ねえ」 牧場の柵に体を預け、杏がふくれっ面で振り向いた。
「中入っていい?」
「ダメ」
「……ケチ!」
「何と言われようとダメ」
「こんなに通い詰めてるのに?今日でもう二週間だよ?」
「毎日じゃないし」
「毎日来れば入れてくれるの?」
 思わず食いつく。……が、
「ダーメ」
「ちぇッ」
 杏は柵の中にいる青年に舌打ちをして、カメラのファインダーを覗き込んだ。古いニコンの一眼レフ。デジタルでもない。女子高生が持つにはあまりに不似合いな代物だ。
「ホントは撮影もダメなんだけど。ま、それくらいは大目に見てやるよ」
 青年――遊馬は柵にもたれ掛かり、空を見上げて欠伸をついた。杏と出会ったのが二週間前。以降、彼女は時折カメラを手に遊びにやってくるようになった。
「飛行機雲が見えるな。明日あたり雨かもな」
 カシャ
「そういや友達は?最近見ないけど」
 カシャカシャ
 小さなシャッター音だけが返ってくる。
「……やれやれだ」
 遊馬は煙草に火を付けた。その横を白いライトバンが通り抜けていく。
「お前さ」
 カシャシャ
「飽きたりしないのか?」
 カシャ
「あ、そう」
 呆れ顔で煙をくゆらせる。こうなるともう何も通じないことは、ここ数日で体験済みだ。杏は片膝をつき、見上げるようなアングルでカメラを構えた。そしてシャッター音。ポニーテールに括った髪が風に靡く。杏が動くたびに白い太ももがスカートの間から見え隠れした。
 杏が見つめる先には、幼い顔をした栃栗毛の仔馬がいた。二週間前とは違い、誰に邪魔されるでもなくのんびりと草をはんでいる。時折尻尾を振ってハエを追い払ったり、白樺の向こうに見える有珠をぼんやりと眺めてみたり。
「ぴー子ってさ」
 カメラを覗きながら杏が言った。
「お茶目だよね」
「お茶目……」 遊馬は思わず表情を崩した。
「今時使うか?そんな言葉」
「いいじゃん別に」
 何か文句でも?と遊馬を睨む。
「この子もやっぱり競走馬になってデビューするの?」
「順調にいけばね」
「そっか」 ようやく杏はカメラを下げた。
「颯爽と緑の絨毯を駆けるサラブレッド……素敵ね」 ふっと眼差しを緩める。
 遊馬は大きく煙を吐き出し、煙草をブリキのバケツに放り込んだ。
「言っとくけど、サラブレッドならどんな馬でもデビューできるってわけじゃない。セリで主取りが続けば、ただの家畜でしかないんだ」
「ぬしとり?」
「買い手が付かないことさ」
「その時はどうなるの?」
「生産者に馬主の資格があれば所有馬として走らせることもできる。けど、そうでなければ処分するしかない」
「処分……」 杏の顔がさっと凍り付いた。
「それってつまり」
「ああ。そんな馬を何頭も見てきたよ。うちの牧場でもそうだった」
「え」
 杏が心配そうにぴー子を見る。
「ああ」 遊馬はヒラリと手を振った。
「俺の実家は静内の小さな牧場でね。わけあって今はここで働かせてもらってるんだ。まだ駆け出しだけどさ」
「わけって?」
「……おいで、ピー子」
 遊馬は杏の問いを軽く流し、作業着のポケットからニンジンを取り出した。タタッとピー子が駆け寄ってくる。まだ仔馬とはいえ、既に杏と同じくらいの丈がある。鼻を鳴らして甘えるピー子のたてがみを撫でながら、遊馬はニンジンを手のひらに乗せて食べさせた。
「この子は心配ないよ。この子の兄ちゃんはファイアスターと言ってね。中央競馬で活躍してるんだ。セリに出せばきっといい値が付く」
「そっか」
 杏がカメラを構えようとすると、厳しい顔つきの遊馬と目が合った。
「……ごめんなさい」
「馬ってのは臆病な動物なんだ。物音や見慣れない物を極端に怖がる。この前の放馬を覚えてるだろ?」
「うん」 杏が肩を落とす。
「ま、でも、どうやらお前は好かれているみたいだな」
「分かるの?」
「まあね。でなきゃいくら俺が一緒でも近づいてこないさ」
 遊馬はひとしきりニンジンを与えると、再びピー子を牧場に放した。
「兄ちゃんの活躍次第では、あの子に数千万の金が動く場合だってある。場長がピリピリするのも当然だよ」
「場長って?」
「この前怒られたろ?」
「ああ」 杏はあの無精髭を思い出した。
「遠目からの撮影は特別に許す。ただし俺がいる時だけだ。その他は禁止。フラッシュも絶対にダメ。いいな?」
「うん」
 分かった。と頷く。もし自分のせいで何かあっては、とてもそんな大金を賠償できるはずがない。考えてみれば、まだデビュー前の仔馬をこんな間近で見れること自体あり得ないことなのかも知れない。
「数千万か……」
 杏は溜息をついた。
「馬産って儲かるんだね。牛や豚じゃそうはいかないもの」
「まさか!」 は、と遊馬は鼻で笑った。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

「手塩にかけて育てたって、二束三文にもならない馬はたくさんいる。馬産が儲かるなら、潰れる牧場なんかあるもんか」
「……アスマ?」
 杏は遊馬の顔を覗き込んだ。苛立ちを隠すように唇を噛み、拳を握りしめている。
「ごめん」
 触れてはいけないことに触れた。すぐにそう気付いた。遊馬はさっき、「わけがあってここで働かせてもらっている」と言っていた。きっとそのことと関係があるのだろう。遊馬の口調は静かだった。けど、それが逆に杏を不安にさせた。「潰れる牧場なんかあるものか」そう言った遊馬の言葉が重くのしかかる。
「ごめんなさい」
 杏はもう一度謝った。
「いや……いいんだ。悪かった」
 遊馬はゆっくりと息を吐き出し、二本目の煙草に火を付けた。
「数千万なんて取引はそうないんだ。だいたい一千万以下。最悪は主取り。種付け料や飼葉、寝藁、人件費。馬が売れなければあっという間に赤字だ」
「そうだよね」
「あの子の兄ちゃんだって、たった七百万で落札された。種付け料だけで一千万もした馬だから大赤字さ」
「……そうなんだ」
「ファイアスターは俺が初めて取り上げた馬だったんだ。だけど、先天的に前肢が外向しててさ」
「がいこう?」
「脚が外に曲がっているんだ。そういう馬は故障しやすく、ほとんどが競走馬として大成できない」
 遊馬は目を細めてピー子を見つめた。
 ピー子の兄ファイアスターは、先天的な外向だけではなく体質も弱かった。おかげで調教のピッチは遅々として上がらず、他の馬よりもデビューが遅れた。ところが、である。ファイアスターはそのレースを持ったままの大楽勝でブッちぎって見せたのだ。関係者は喚起した。大した調教も積んでいなかったのだから、驚くのも当然だった。
「なんだあの馬は?!」
 ライバル馬主やマスコミが、ひっきりなしに管理する瀬戸口調教師の元を訪れた。
 遊馬は不安だった。彼の体の弱さを、遊馬は誰よりもよく知っていた。とにかく無事で、と祈る思いで迎えた二戦目の朝、ファイアスターが熱発でレースを取り消したことを知った。予感は的中した。幸いだったのは、思ったほど症状は重くなかったことだった。その後もう一度立て直され、再び挑んだ二戦目をまたしても圧勝した彼は、一躍「ダービー馬候補」に名乗りを上げた。

「競走馬はね、馬主に引き渡した時点で牧場とはほとんど縁が切れるんだ」
 と遊馬は言った。
「どう言うこと?」 杏が聞き返す。
「もう戻ってこないの?」
「馬主に引き取られた馬は調教師に預けて鍛えられる。体調管理も含めてね。帰ってくるのは長期放牧に出された時くらいさ」
 ファイアスターの熱発は、放牧するほどのこともなく回復した。
 二戦二勝。いずれも他馬を寄せ付けぬ圧勝劇。ただ、一戦ごとにまるで魂を削るように消耗し熱発を繰り返すことから、ダービーの前哨戦となる皐月賞では三番人気に留まった。
「……で、どうなったの?」
「知りたいか?」
「知りたい知りたい」 杏は身を乗り出した。今まで競馬に何の興味もなかった杏にとって、遊馬の話すべてが未知の世界だった。
「結果は……」
 遊馬がニヤリと言葉を切る。そしておもむろに続けた。
「熱発。皐月賞回避」
「えー!」
 杏はつい大声を出してしまい、慌てて口を手で覆った。
「それが先週の話さ」
「……大変だね。馬育てるのって」
「そう言うこと」
 遊馬は二本目の煙草をもみ消すと、うんと大きく伸びをした。
「さ、そろそろピー子連れて戻るわ」
「あ、うん、分かった」
 最後に一分だけ、と言って再びカメラを構えた杏に苦笑いで返し、遊馬はピー子に向かって歩き出した。牧草の状態を確かめる。実家の静内とはまるで違う。有珠の噴火で積もった火山灰質の土壌は、本来競走馬の育成には適さない。それを地盤改良し、良質な牧草を根付かせた先人の努力は並大抵ではなかったろう。幸い2000年の噴火では育成馬を避難させるだけですんだものの、その前の噴火では経営が傾くほどの被害を被ったと聞く。
「もういいか?」
 遊馬が尋ねると、杏が顔を上げた。
「うん。ありがと」
「じゃ」
 ピー子を促して背を向ける。その足がハタと止まった。
「……結構様になってるぜ」
「何が?」 杏が眉を潜める。
「カメラ」
「あー、ありがと」
「写真家にでもなるのか?」
「無理無理」
「やってみないと分かんないだろ。今度見せろよな。写真」
「アスマが煙草止めたら考える」
「なら一生無理だ」
 アハハと笑い、遊馬は「じゃあ」と小さく手を振った。
「じゃね」
 杏は何気なくバケツを見た。吸い殻ばかりが十ほど転がっている。パパも煙草が好きだった。そんなことを思いながら、杏はカメラを肩に歩き出した。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

なかなかネタが降ってきません。
1000文字小説の話です。
自分で「掌編小説のススメ」なんて企画をぶっ立てたんだから、せめて第一回のお題に対するネタぐらい考えてあったんじゃないの?と言われそうですが、なかったんですね。これが。あはは
7月末にしといて良かったあああああ〆切り。
原稿まだ白紙とか筆遅すぎワロタwww
ボルカノ・ベイの方はまだストックが倍ほどあるのでお気楽ですが、確実に更新ペースに執筆が追いつけてないので、そのうち原作に追いついてしまったアニメのように、訳の分からん雑記が増えてくるかもしれません。てか、この記事が既に雑記だったwwwwwwwwww

雑談ついでにちょっと脱線。
このブログを再開した翌日、にほんブログ村からメールが届いた。

「記事トーナメント新設」

確かそんな案内だったと思う。
要は、ある特定のテーマに沿った記事(ブログ)を募集し、集まった記事同士をトーナメント方式で競わせるというもの。投票はにほんブログ村のユーザーなら誰でも可能で、一日一票が与えられる。ちょっと面白そうなので応募してみた。

小説を書こうブログトーナメント - 本ブログ村
小説を書こうブログトーナメント

小説を書いている記事なら参加可能(ただし、にほんブログ村ユーザーでないとダメ)なのだが、応募はすでに締め切られ、トーナメントへの投票が始まっている。

第一回戦では、参加者全員の42名総当たりで32名に絞られた。
第二回戦からトーナメント方式で、16名に絞られた。
第三回戦では8名に。
現在ベスト4をかけて第四回戦が行われていて、本日(22日)深夜12時に開票となる。
ちなみに明日は準決勝で、明後日が決勝戦。

これ、思いのほか楽しめます。
僕はどこまで生き残れるかな?
同じようなトーナメントは今後もあると思います。
にほんブログ村のユーザー登録が必要ですが、参加人数も手頃ですし、ちょっとした腕試しになるかもですよー♪

テーマ: 雑記
ジャンル: 小説・文学

(六)

 底冷えのする館内の床一面に、内浦湾の航空写真が描かれている。浅見はその脇に立ち、足元に広がる洞爺の町を見下ろした。
「鳥にでもなった気分だな」
 ポキリと首を鳴らす。こうして見ると、いかに有珠山とその周辺がいびつな地形をしているかがよく分かる。まず、陸の真ん中にまるで目玉焼きのような穴が開いている。洞爺湖だ。洞爺カルデラは約十万年前の最終間氷期に数回の噴火を経て形成された。洞爺湖はその中に淡水が流れ込んでできたカルデラ湖である。それから、湖の南には、今なお白い噴煙を上げる火山が見える。特徴的なのは色。外輪山の中だけが赤茶けている。噴火によって流れ出た溶岩の中の鉄分が酸化したためだ。多くの活火山に共通する現象だが、見ていてあまり気持ちのいい物ではない。
「いたいた」
 頭上で声がした。
「そろそろ講演の時間ですよ」
 吹き抜けになった二階の手すりから三浦が顔を出す。その横の階段を講演のパンフレットを手にした婦人達が賑やかに上っていく。どれくらいの公聴者が集まっているのかは分からないが、少なくともゼロと言うことはなさそうだった。
「今行く」
 浅見は懐から煙草を取りだし、「一本だけ待ってくれ」と言って外に出た。
 乾いた空気が肌を刺す。浅見は細長い煙を吐き出し、煙草の灰を指で弾き落とした。振り向けば、そこには雄大な有珠の山並みがたたずんでいた。静かだった。いつも思うことだが、こうしているととてもこの山が猛々しく噴煙を噴き上げる姿など想像できない。しかし、火山泥流を食い止める砂防ダムや導流堤が設けられた山肌は、過去どれほど多くの人々の営みを飲み込んできたかを何よりも雄弁に物語っていた。
「動かざること山のごとし、か」
 浅見は呟いた。孫子の兵法にある有名な言葉だ。速きこと風のごとし、静かなること林のごとし、侵略すること……
「火のごとし」
 と小さく口ずさみ、浅見は煙草を灰皿に押しつけた。数十年後、あるいは明日起こるかも知れない有珠の烈火から人々を……愛する家族を守る。それが自分の死命なのだと深く息を吸い込む。
「さて」
 浅見は頬を叩いて気合いを入れると、有珠の山を背に講演会場へと姿を消した。

 * * *

 その一時間後、自転車に跨った一人の少女がビジターセンターの前を通りがかった。前かごに鞄を放り込み、肩から古い一眼レフのカメラをぶら下げている。
「あーもう!」
 杏はセンターの前に自転車を止め、こぐたびに太ももに当たるカメラを持ち直した。ショルダーが長いのだ。短くしようと何度か試してみてもなかなか巧くいかない。
「やっぱコレ用の鞄がいるなあ」
 杏は自転車かごで傾いている薄い学生鞄に向かってため息をこぼした。もちろん、それで学生鞄が膨れてくれるわけじゃない。かと言って、カメラをむき出しのままかごに放り込むわけにもいかない。
「まったく」
 諦めてもう一度カメラを肩にさげた杏は、ペダルに足を掛けたところで動きを止めた。
 ちら、と横を見る。ログハウスをイメージした真新しい建物の入り口に小さな受付がある。杏は少し迷ったあと、自転車を降り、受付に向かって歩き出した。
「あの……」 と受付に声を掛ける。
「いらっしゃいませ」
 閑散とした建物には不似合いなほど可愛らしい声が返ってきた。
「お一人様ですか?」
「あ、いえ」
 杏は一瞬躊躇ったものの、気を取り直して受付のお姉さんの顔を覗き込んだ。
「お手洗いお借りしてもいいですか?」
「ええ」
 角田、と言うネームプレートを付けたお姉さんがニコリと微笑んだ。
「そちらの階段の奥になります」
「えと、お金いります?」
 杏はよいしょとカメラを掛け直し、ポケットの財布に手を伸ばした。受付窓の上には、入館料大人600円と書いてある。お姉さんは首を振った。どうぞ、と言うことらしい。
「すみません」
 杏は小さく頭を下げ、少し気まずそうにトイレに向かった。
「綺麗な建物」
 トイレから出てきた杏は、グルリと館内を見回した。存在は知っていた。牧場からの帰りに必ず前の道を通るのだ。けれど、中に入るのは初めてだった。壁に有珠山の写真が飾ってある。外輪山の散策道や、昭和新山、オガリ山の写真、そして、大噴火を起こした時の生々しい写真も。足元を見れば、床一面に有珠山周辺の航空写真が引き伸ばされていた。
「まるで鳥になった気分ね……いけね!」
 杏はタダで中に入れてもらったことを思いだし、足早に出口に向かおうとした。とその時、不意に二階から声がした。マイクを通した声だ。学校の始業式に体育館で話す校長先生のくぐもった声と良く似ている。
「何かやってるんだ」
 顔を上げると、階段の脇に立て掛けられた案内板とパンフレットに目が止まった。
『有珠山・噴火の歴史 -2000年噴火を振り返る-』
 どうやら有珠山の噴火について講演が開かれているらしい。もちろん、杏も2000年の噴火のことは知っている。けれど、それはまだこの町で暮らし始める前のことだった。
「ふうん」 と呟き、杏はその横を通り過ぎようとした。用も済んだのにいつまでもウロいているわけにもいかない。
「ありがとうございました」
 受付のお姉さんに頭を下げ、カメラを手に出て行こうとした。ところが、
「え……?」
 また杏の足が止まった。さっきと同じ案内板が館の入り口にも置いてあった。講演のタイトルも同じだ。そのタイトルの横に講師の名があった。
『講師:浅見真一』
 肩書きに札幌管区気象台火山監視センター主任とある。よく見れば小さく写真も載っている。
 見間違うはずもない。
「……パパ」
 カメラを握りしめ、杏はポツリと呟いた。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

掌編小説のススメ」にて企画した1000文字小説を書いてみました。
お題は夏の風物詩、字数制限1000字、ジャンル問わず。では、どうぞ。

* * *

いつも朝顔が笑ってた。
玄関に並んだその花は、歌うように笑ってた。
たくさん水をあげたっけ。毎日欠かさずあげたよね。
だから背中が曲がったの?
そう婆ちゃんに尋ねたら、そうかものおって笑ってた。
駅まで電車で三時間。
そこからバスで一時間。
母さんにもらったお小遣い。父さんがくれた麦わら帽。迷わず一人で来れたんだ。すごいでしょって大いばり。

天井に吊った蚊帳の中。まるで僕の秘密基地。
客間に敷いた二組の布団、縁側近くが特等席。窓を開けて横になる。
火照った体を夜気が包む。
庭ではしゃいだ花火の煙、蚊取り線香のかすかな匂い。
鈴虫と蛙の鳴き声たち。賑やかなのに静かな夜。
すごく、すごく静かな夜。
月明かりに浮かぶ稲穂たち。それから遠くの三岳の山。淡く透き通った紺色世界。遠くで顔を上げたのは、子鹿の群れかそよ風か。
倉の奥から望遠鏡。三脚立てて境筒置いて、照準絞って覗いてみても、結局巧く見えなくて。山から突き出たスギの木や、はくちょう座なんか探してみたり。そのうちそれも飽きてきて、ほったらかしで朝寝坊。

朝露踏んでクワガタ捕り。ボーボーと聞こえる何かの声。怖くなって諦めて、ドングリばっかり籠の中。
あれは鳩だよ、と婆ちゃんは言った。
うそだ、鳩はあんな鳴き方しないよ、と僕は返した。
朝霧の中の帰り道、にこりと笑った婆ちゃんは、黙って僕の手を握ってくれた。
婆ちゃんの手のひら大きくて、かさかさしてて柔らかで、いつも僕を待っててくれた。

またおいで、と婆ちゃんは言った。
うん、また来る、と僕は笑った。

玄関に並んだ朝顔は、鉢の中で咲いていた。
鉢には三本の棒が立っていて、頭でキュッと結ばれて。じゃれあうようにツルたちが、たくさん花を咲かせてた。
あの日と同じ景色でも、やっぱりどこか違ってた。
三岳の山も蝉の音も、蛙と鈴虫の合唱も、田んぼの苔やあぜ道や、昼を告げるサイレンや、少し曲がった電柱に、昔っからあるイチョウの木。
あの日と変わらぬその場所に、あの日と変わらぬ陽が差して、土手を流れる小川から、カラン、コロンと音がする。
婆ちゃん、来たよ。と呟いて、小さく鳴らした鐘の音は、線香の中で揺れていた。
もう伝えることはできないけれど、手を握ることもできないけれど。今だから分かることがいっぱいあって、聞いて欲しいこともたくさんあって。何から話そうか悩んだけれど、ふっと最初に浮かんだ言葉、

「なあ婆ちゃん、あれはやっぱり鳩だったよ」



テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

 どのくらいそうしていただろうか。「あの?」と後ろから声がした。顔を上げると、さっきの受付のお姉さんと目が合った。
「聞いて行きます?」
「え?」
「講演を公聴される方には入館料をもらってないの。良かったらどうぞ」
 はい、とパンフレットを差し出される。杏はそれを黙って受け取り、もう一度講師の欄を見つめた。
「浅見、真一」
 口の中で反芻する。単なる同姓同名でないことは顔写真を見れば分かる。ちょっと照れたような顔。「講師」なんて書かれていても、少しも偉そうに見えないところが父らしい。
「会場は二階よ。そうそこ。その階段を上がってすぐに右」
 お姉さんも暇なのだろう。受付の窓から顔を出し、頼んでもいないのに会場の場所を教えてくれる。杏は促されるままに向きを変え、階段の下まで歩いたところで足を止めた。
 両親が離婚して以来、杏は一度も父の顔を見ていない。もちろん連絡も。別に誰にダメと言われた訳じゃない。父を嫌いなわけでもない。疎遠になったのは、単に父が何も連絡をくれなかったからだ。ただの一度も。
「ようこそ。一般の方ですか?」
 突然呼び止められ、杏は胸元のパンフレットを抱きしめた。会場の外の廊下にスタッフらしき若い男性が立っていた。あれ?と我に返る。どうやら無意識のうちに階段を上ってしまっていたらしい。
「こちらにご記帳ください」
 男性が胸ポケットからボールペンを抜いて差し出した。その薄いねずみ色の上着に見覚えがある。良く見れば、胸のところに朱色で「札幌管区気象台」と縫い込まれていた。やっぱり、と思いながらペンを受け取る。同じ職場の人なのだろう。
 廊下に置かれた簡易机の上に、一般来客用の記入用紙があった。杏は「浅」と書きかけたところでそれを塗りつぶし、「戸田美月」と書き直した。本人に話せば、「勝手に親友の名前使わないでよね」と怒られそうだ。
「どうぞ」
 と講演の資料を渡され、一番後ろの扉から入るよう案内される。中は真っ暗だった。唯一明るいスクリーンには、外輪山を含む有珠の上空写真が映し出されていた。噴火直後の物だろうか。あちこちに地割れや流れ出した火砕流の跡が見える。
「……そして四月十二日、この予知連の見解を受けて、避難指示地区の一部解除が決定されました」
 懐かしい声だった。
 ピンマイクごしのせいか、少し少しくぐもって聞こえるそれはしかし、紛れもなく父の声だった。
 暗闇の中、杏は壁にもたれ掛かった。会場は小ホールになっていて、映画館やコンサート会場のように一番前の舞台から緩い階段状に足元が高くなっている。一番後ろから入った杏の姿は暗くて遠い。まず見つかることはない。
 父はスクリーン脇の演説台にいて、時折レーザーポインタを使ってスライドの説明を行っていた。小難しい専門用語は分からなかったけれど、噴火から完全に避難指示が解除されるまでに一ヶ月半かかったことや、その後の復旧事業に多額の整備費用が必要だったことはよく分かった。今は何気なく暮らしている洞爺湖の温泉街も、遊馬たちが働くメイジ牧場も、きっと大変だったに違いない。けれど、
「信じられない」
 それが率直な感想だった。 当時杏は六歳で、札幌に住んでいた。身をもって噴火の怖さを体感したことはない。杏は会場を見渡した。顔は見えないものの、比較的高齢の公聴者が多いようだ。それはそうだろう。もし杏が友達を誘ったって、誰一人聞きになど来やしないに違いない。
 スクリーンの画像が切り替わる。慣れてきた目で議事次第を見ると、講演開始からもう一時間以上経っていた。
「結構喋るんだ」
 などと変なところに感心する。ある日突然パパと再会したら……そんなことを考えた時期もあった。言葉に詰まって見つめ合ったり、涙流しながら抱き合ったりするのかな?なんて、まるで人ごとのように想像したりもした。けど、現実は違ってた。
 思えば、今まで父がどんな仕事をしているのかをよく知らなかった。もちろん、気象台に勤めていることは知っていた。けど、仕事の内容など気にしたこともなかった。
「天気予報でも作ってるんじゃない?」
 もし誰かに聞かれれば、きっとそんな風に返していただろう。今までは。
 ああ、そう言えば……と思い出す。
 小学生の頃、何度か父がどこかの山の噴火口をヘリから撮ったと言って、写真を見せてくれたことがあった。何の興味も湧かなかった。どう答えたかも忘れた。それでも父は「凄いだろ」と楽しそうに写真を見せてくれた。とにかく写真が好きな人だった。そんなことを考えていると、いつの間にか講演が終わっていた。
 拍手と同時に会場の灯りが付く。
 杏は慌てて顔を引っ込めた。
 司会者がお礼の言葉を述べ、すぐに質疑応答が始まった。杏は会場を後にした。久しぶりに見た父は、ずいぶん白髪が増えていた気がした。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

 家に帰ると、三階建てのアパートの下に母の自転車が止まっていた。
「まだ家にいるんだ」
 確かこの時間は旅館のはずだった。ひょっとすると、シフトの時間が少しずれたのかも知れない。
「入るかな」
 杏は呟き、無理矢理カメラを学生鞄に詰め込んだ。薄い鞄がいびつに膨らむ。明らかに変。
「やっぱ鞄欲しいな」
 独りごちてチャックを上げていると、
「あら杏」
 と母の雪乃がドアから顔を出した。
「ちょうど良かったわ。今から旅館に出るから後はよろしくね」
「あ、うん」
 杏は慌てて鞄を背中に回し、ぎこちなく笑って見せた。
「どうかした?」
「ううん。いってらっしゃい」
「ご飯はレンジに入れてあるから。ちゃんと勉強するのよ」
「分かってるよ」
「じゃね」
「うん。気をつけて」
 杏はジーンズ姿の母を見送り、ホッと溜息をついて靴を脱いだ。
 自分の部屋に鞄を置き、短い廊下を歩いてダイニングに向かう。体をずらしてテーブルと食器棚の間を抜け、冷蔵庫からお茶を出す。えいと足で椅子を引くと、大きくもない電話台に背もたれが当たった。
 まずはテレビ。
「うーん」
 一通りチャンネルを変えて電源を消す。
 次に夕飯のチェック。肉じゃがコロッケ。
「ありがとう!ママ!」
 杏はクルリと小さくスカートを翻らせ、再び自分の部屋に落ち着いた。
 窓を開けて椅子に腰掛け、パンパンになった鞄からカメラを出す。それを引き出しの奥にしまい込み、制服のままベッドの上に寝転がった。
「はあ」
 つい溜息が漏れる。
 気にしないでいようとしたって、どうしても父の顔を思い出してしまう。考えるなと言う方が無理な話だ。いっそママに話してみようか、なんて考えてみる。そしたらママはどんな顔をするのだろうか。「あの人の話はやめて」とでも言うのだろうか。
 そもそも、と杏は思うことがある。そもそもどうして二人は別れてしまったのだろう。何度か聞いてみようとしたことはあった。でも、結局ちゃんと聞けなかった。恐いとか、不安とか、そういうのとも少し違ってて、何というかこう、巧く言えないけれど。

「何これ、すっごいモヤモヤする」
 杏は天井を睨んだまま頬を膨らませた。今すぐにでも美月にメールしたかったが、あいにく今は塾の時間だ。送ったところであと一時間は返ってこない。
「美月のバカ」
 八つ当たりにも程がある。また美月に怒られそうだ。
「パパのバカ」
 杏は言い直し、ため息と一緒に枕に顔を埋めた。
 途端に父の顔が脳裏に浮かんだ。少しトーンの低い、ちょっと渋めの声がよぎる。
「あー……もう!」
 ふるふると頭を振った後、突然「そうだ!」と跳ね起きた。
 やおら起き上がった杏は、鞄の外ポケットに手を突っ込み、中から分厚い封筒を取り出した。逆さにすると、三十枚ほどのプリント写真が出てきた。写真屋で現像してもらったのだ。もちろん、ちゃんとお金を払って。
 杏はもう一度ベッドに仰向けに寝転がり、それを一枚ずつかざしてみた。
 ピー子。
 これもピー子。もさもさと草を食べている。
 かと思えば、次の写真はひょいと顔を上げた瞬間をとらえた力作だ。
「可愛い♪」
 杏はゴロリと体の向きを入れ替えた。
 ピー子。
 また。これもピー子。
 ふわりと舞い込んだ風が、ベージュのカーテンをなびかせる。
 ピー子。
 牧場の夕焼け。
 ピー子。
 ピー子のお尻。
 あ、美月の変顔。
 笑いながらめくった最後の写真に、杏はふっと笑顔を収めた。他の写真を枕元に落とし、小首を傾げてかざした写真の縁を指でなぞる。
 そこには、優しい笑顔でピー子を見つめる、遊馬の横顔が映っていた。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

現在執筆中のボルカノ・ベイも、無事Act.1を更新し終えることができました。
野いちごで書きためているストックはまだあるのですが、このペースで行くと間違いなくあと一週間もしないうちに尽きてしまうので、今日は更新お休みです。
その代わり、と言えば語弊がありますが、今回は有珠と洞爺湖の簡単なご紹介などをしてみようかと思います。

まず場所。
北海道です!をい
◆地図
杏の父・真一が勤める札幌管区気象台は当然札幌にあるわけで、そこと杏と雪乃が暮らす洞爺湖町との距離を何となく分かっていただけたらと思います。

次に有珠山。
中腹に「火山村」と呼ばれる観光スポットがあり、そこから昭和新山や有珠山の山頂に登ることができます。とりわけ有珠山は標高が高いので、火山村からロープウェーで登ります。往復大人1450円。まあそんなもんですかね。
◆有珠山ロープウェーと山頂の様子
有珠山頂には展望台があり、そこから有珠外輪山の遊歩道を歩いていくと、銀沼大火口を一望できる展望台にたどり着くことができます。
ちなみに、ちょっとこれはネタバレになるのですが、杏と遊馬はこのロープウェーを使って有珠山頂に向かうことになるので、是非イメージとして持っていて下さればと思います。

これらのリンクはいずれも「有珠山ロープウェー」の公式サイトなのですが、有珠の噴火の歴史と2000年の噴火の時の写真が載っています。興味のある方はご覧下さい。ただし、2000年の噴火は過去の噴火に比べて規模が小さかったので、僕がボルカノの中で書こうとしている噴火はこれ以上です。
◆有珠の噴火の歴史

ついでですので、杏の父・真一が講演した洞爺湖ビジターセンターもご紹介。
◆洞爺湖ビジターセンター
僕も行ったことがあるのですが、館内にはいるとすぐ、足元に洞爺湖の航空写真が広がっています。さすがに洞爺湖サミットが開かれただけのことはあって、施設も凄く綺麗です。

さて、最後に杏の母・雪乃が働く洞爺湖温泉街。
なかなかいいホムペが見つからなかったので、写真を数枚ピックアップしておきます。
写真は大きなホテルが映ってますが、雪乃が働いているのはもっともっと小さい、旅籠旅館のようなイメージです。洞爺湖は結構大きくて、真ん中に中島が浮かび、夏には湖面に浮かぶ遊覧船から盛大に花火が打ち上げられます。

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テーマ: 雑記
ジャンル: 小説・文学

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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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※二度踏みノーカウント
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