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ボルカノ・ベイ Act.1 _4

Category : volcano bay

(四)

 道央自動車道を札幌から南に下り、苫小牧から今度は西へと進路を変える。けして広くはない社用車の後部座席で、浅見はノートパソコンを開いた。と、こう言えば聞こえはいいが、所詮現地視察用のライトバンだ。硬いスプリングのせいで揺れる車内では、どうも巧くキーが叩けない。浅見は眼鏡を外して溜息をついた。
「今日の資料ですか?」
 三浦が運転席からバックミラーを覗く。
「ああ」 浅見はほぐすように首を回し、窓の外に目を向けた。
 四月の終わり。路肩の草木が淡く膨らみ、ようやくこの北の大地にも道外から一月ほど遅れて春の兆しが差込んできた。高速の路肩に車を止め、何やら土手を見下ろしている家族の姿が通り過ぎていく。ふきのとうや土筆が芽吹くにはまだ早かろうに。
「あとどれくらいだ?」
「一時間ほどで着くと思います。途中で昼にしますか?」
「いや、直接行こう」
「りょーかいです」
 三浦はあと五キロと表示されたパーキングエリアの看板を横目に、軽くハンドルを握り直した。
「酔わないんですね。車」 チラと振り返る。
「まあな。昔から乗り物酔いはしないタチでな」
 浅見は午後の講演に使う動画のチェックを行いながら顔を上げた。
「船に乗ってたって本が読める」
「えー!僕はダメっす。運転している分には大丈夫なんですけどね」
 うえー、と三浦が舌を出す。
「持って生まれた体質だろうな。両親には感謝してるよ」
 浅見は苦笑いと共にパソコンを閉じ、電源が切れたのを確認してからユーエスビーメモリを抜き取った。気象台勤務という仕事がら、浅見くらいの年齢になれば、小さな講演を依頼されることが年に数回ある。今日もそう。2000年に発生した有珠の噴火について講演を行うようにとセンター長から指示を受けたのが三日前のこと。すぐに準備にはかかったものの、どうにも浅見の腰は重かった。
「有珠……か」
 浅見はメモリを胸ポケットにしまい、鞄から講演案内のチラシを取り出した。
『有珠山・噴火の歴史』
 そう題された講演題目の下には、「-2000年噴火を振り返る-」という副題が記載されていた。会場は洞爺湖ビジターセンター。かの洞爺湖サミットの開催にあわせて有珠山の麓に整備された、環境庁の外郭施設だ。
「そうだ」
 三浦が今思い立ったと言った様子でハンドルを叩いた。
「今夜はパーッと洞爺湖温泉にでも浸かって帰りましょうよ」
「ん……ああ」 そうだな、と言葉を濁す。同時に、こいつにも話しておいた方がいいのかも知れんな、と浅見は心中で呟いた。
 他でもない。洞爺湖は、六年前に別れた妻と娘が暮らす町なのだ。その後一度だけ仕事であの町を訪れてから、おそらくもう三年は経つ。正直、複雑な気分だった。
 浅見を乗せた車は、まだ寒気の残る春空の中を軽快に飛ばしていた。時折体を揺らす振動が、単調な外の景色とともに瞼の上にのしかかってくる。
「もう春だな」
「そうですね。今年は例年より少し早いみたいですよ」
 ところで、と三浦は続けた。
「資料はもういいんですか?」
「ああ。前に使った講演のデータが残ってたからな。半分はその使い回しだ」
「そっすか。まあ有珠の資料なら腐るほどありますしね。2000年の噴火ならなおさらですよね」
 三浦はいつになく饒舌だ。
「もしかしてお前」 浅見がニヤリと運転席を覗き込む。
「眠いのか?」
「だ、大丈夫っすよ」
「そうか」
 すまんな、と形だけ誤っておいて、浅見は後部座席に身を沈めた。
 飛行機雲が見える。空は遠く、青く。どこまでも続く真っ直ぐな道は、まるで水平線の彼方に吸い込まれるようにゆっくりとカーブを切る。

 オホロという言葉がある。
 アイヌ語で「永遠」を指す言葉で、元々ホロとは「大きい」という意味であるらしい。漢字では幌が充てられた。札幌や幌別など、今でも道内の地名に古(いにしえ)の息吹を感じることができる。長い長い年月の中で、人々は独自の文化を育んできた。
 左手に太平洋、右手に樽前山の雄大な姿を眺めるうちに、やがて室蘭の地球岬のヘサキが見えてくる。白樺の林を越え、トウモロコシ畑を眼下に見下ろす。岬を回れば、目の前にはまた違った海の色が現れる。内浦湾だ。大きな入江のように両手を広げたこの湾は、かつてこの地を訪れたイギリス人が「ボルカノ・ベイ」と表現したことから、噴火湾とも呼ばれていた。淡くて深い。どこか哀愁の漂う風景を思わせるのは、あるいは浅見の感傷ゆえかもしれない。浅見が目指す洞爺湖は、この噴火湾の一画にあった。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

こんばんは^^

どもです、楓さん^^

ホロって、そういう意味があるんですね。
どうしても漢字から意味を探してしまいそうになるのですが、そうですよね、アイヌ語に漢字を当てているわけで、本当の意味を知るとなるほどって思います。

そしてそして、やっぱり、描写、凄いです。
上手いなぁって、本当に思います。
4月だからといって、本土とは違う4月の景色。
本土ではあまりみない、まっすぐにどこまでも続く道。
仕事で2.3回しか北海道に行ったことがないので、どんな景色か、テレビとかの情報でしか知りません。
ですので、北海道の4月はそういう景色なんだなって、脳裏に描きました^^

そして、三浦くんが何気に好きです。
うふふふふふ~♪
ではでは^^

>kazuさん

こんばんは。
何気に会社に出ていまして、掌編小説のプロットでもと考えていたのですが、なでしこジャパンの試合を徹夜で観戦していたため、どうにも頭が回りません。仮眠を取ったとは言え眠い!!笑
なので、今日はボルカノ・ベイの更新をちょこっとだけしてみました。もっともこれもオーバーペースになるとストックが尽きてしまいますので、更新速度の調節が難しいっす。

アイヌ語は面白いですね。おっしゃるとおり漢字は後付で当てられているのですがそれがまたいい味出しているといいますか、悠久の時の流れを感じます。北海道の描写は僕も苦心しています。僕も数度車で走ったことがあるだけなので、専らイメージに頼らざるを得ないのが辛いところでして……何とかロケハンに(こればっかwww

三浦いいですか?ふふ。活きのいい新入りです。物語を通して、彼は浅見と行動を共にすることになるでしょう。等身大で頑張れ!です♪

No title

こんにちは。
ツイ先ほど、ブログ村で知ったのですが、act1といいますか冒頭から読みたいのですが、冒頭を出す方法がわかりません。
act2からは右に案内があるのですが・・・。
できましたら、冒頭から読む方法をご教示下さい。
宜しくお願いします。

>足立sunnyさん

初めまして。
辺境の地へようこそお越し下さいました。
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もし面倒でしたら、下記からも。

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興味を持って下さりありがとうございます。
いつでも遊びにいらしてください♪
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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