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ボルカノ・ベイ Act.1 _5

Category : volcano bay

 車が虻田洞爺湖インターチェンジに向かうにつれて、今なお白煙を噴く有珠の山影が近づいてくる。高速を降りればもう、目指す洞爺湖ビジターセンターまでは十分ほどの距離だ。
「早く着いたな」
「ですね」 ウインカーを出しながら三浦が答えた。
「やっぱり先に昼にしましょうか」
「ああ、そうだな」
「いいところ知ってます?」
「いや……」
 浅見が首を捻っていると、三浦はハザードを付けて車を路肩に止め、カーナビのパネルを操作しはじめた。
「何してるんだ?」
「検索ですよ。カーナビに登録されている食事場所を表示できるんです」
 知らないんですか?と振り返る三浦に、浅見は肩をすくめて見せた。
「便利なもんだな」
「今時知らない方がどうかしてますよ」
 めぼしい店を見つけた三浦は、目的地にセットして車を発進させた。国道230号線を洞爺湖沿いに走ると、白樺林の向こうに白い柵が見えた。林は断続的に途切れ、その都度人気のない交差点が姿を現す。しばらく進むと、道の片隅に「メイジ牧場」と描かれた大きな看板が見えた。
「あ、馬だ」
 不意に三浦が車の速度を落とした。引退したサラブレッドだろうか、放牧された馬が数頭草をはんでいる。
「そういやお前、競馬やるんだったな」
「ええ、好きですよ。浅見さんはやらないんですか?」
「昔はやったがな」
「さてはオグリキャップ世代っすね」
「まあそんなところだ」
 浅見が苦笑いを溢すと、三浦はおもむろに車を止め、ダッシュボードから競馬新聞を取り出した。
「どうした?」
「いや、メイジ牧場って結構大きな牧場じゃないですか。メイジラモーヌ、メイジティターンにメイジライアン」
「懐かしいな」
「先週の皐月賞にも何頭か送り出してたんじゃなかったかな」
 そう言って競馬新聞を食い入るように見つめる三浦の目が輝いている。浅見は呆れ顔で後ろから三浦の頭を軽く小突いた。
「おい、飯はどうした?」
「行きます行きます。ちょっとだけ待ってくださいよ」
 そう言った三浦の声が、突然「ああ!」と裏返った。
「何だ?」
「そうか……こいつか」
 一人納得した様子の三浦が浅見に新聞を差し出した。出走馬に関する様々な情報が記載された「馬柱」と呼ばれる一覧の中に、確かにメイジ牧場産の馬の名前がある。
「……ファイアスター」
「そうです。二戦二勝の無敗で皐月賞に挑んだんですけど、直前に熱発を起こして回避したんですよ」
「体が弱いのか」
「ええ。でも出走したレースは二戦とも圧勝してるんです」
「ふうん」
 浅見は敢えて興味なさげに相づちを打った。この手のタイプは、熱く語り始めると止まらなくなるのだ。
「つれないっすねえ」
 案の定出鼻をくじかれた三浦は、助手席に新聞を放り投げ、再び車を走らせた。
「やれやれだ」 浅見は聞こえない声で溜息をついた。
 浅見が乗り物酔いしないのも、ファイアスターという競争馬の体質が弱いのも持って生まれた体質なら、三浦のこの性格もまたそうなのだろうと思う。よく言えば人懐っこい。今時の若者らしく物怖じしないし、仕事もしっかりこなす。ただ、縦社会の中でそれは諸刃の剣だ。たまたま浅見の下に配属されたからいいようなものの、もし上下関係にうるさい上司の下についていたら、半年ともたなかったに違いない。
「ラーメンでいいですか?」
「ああ」
「味は保証しませんけどね」
「何でもいいよ」
 鼻歌まじりにハンドルを握る三浦を横目に、浅見は思わず苦笑いを溢した。
 ふと、牧場の柵から仔馬を見つめる少女の姿が遠目に見えた。高校生くらいだろうか。面影までは分からないが、膝丈ほどのセーラー服姿は、中学生にしては大人びているように見えた。娘の顔が脳裏をよぎった。六年前に小学五年生だった杏も、今では高校三年生になっているはずだった。いつも腕にしがみついてきた。パパ、パパと言って離れなかった。脳裏に浮かんだのは、その頃の幼い娘の笑顔だった。
 親権は妻に譲った。夜勤の多い気象台勤めでは、とても男手一つで育てていく自信がなかった。以来、一度も連絡を取ったことはない。知人伝いに洞爺湖町で暮らしている事だけは聞いていた。二人は今どうしているんだろうか。元気でやっているんだろうか。六年経った今でも、そう思わない夜は一日たりとない。

「……浅見さん?!」
 浅見は三浦の声に我に返った。
「何だ?」
「何だじゃないですよ。電話、さっきから鳴ってますよ」
「え?」
 ハッと意識を戻すと、鞄の中から携帯の着信音が聞こえてきた。慌ててディスプレイを開く。「角田さん」という文字が浮かんでいる。講演会場の事務担当だった。
「はい、浅見です」
 浅見は電話に出ながら、もう一度牧場に目を向けた。ブナの木々が流れ去っていく。遥か遠くに白い柵が見えた。少女の姿は、もう見えなかった。
「それで結構です。ええ、プロジェクターだけあれば……」
 手帳にメモを走らせる。その横顔はもう、いつもの浅見の表情に戻っていた。
 車は洞爺湖の湖畔をゆっくりと走っていく。湖面に反射した陽射しが、無数の燐光となって浅見の横顔に降りそそぐ。
「はい。宜しくお願いします」
 答える浅見の窓の向こうに、雲と白煙に包まれた有珠の山肌が見えた。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

あぅっ!?

気づかない、いや、わかんないですよね!!
杏ちゃんに(><。←そう決めつけている…)
浅見さん、かっこいいなぁ~なんていうか。落ち着いて、洞察力あって。部下にも優しくて。
いつか西院と対決させてほしい!!!!きっと、勝つ~!!!

だんだんと、近づいていきますね。
人も、時間も、という感じ。地震、噴火、どうなるんだろう。
ああ、まったく分からないから、ほんと、どきどきします!

>らんららさん

こんにちは。
遠目にちらと見ただけですからね。
それに六年も会ってないと尚更です。
ニアミスですねえ。ふふふ←

浅見は素敵上司ですね。なでしこジャパンの佐々木監督のような(違うか
西院との対決……いやあ、それは難しいかなあ♪

近づいています。
一歩づつ。
でも、プロローグで書いたとおり、浅見は有珠の火山活動を札幌の監視センターで知ることになります。つまり、Xデーはまだ少し先ってことですかね。
どきどきしてお待ち下さい♪
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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