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ボルカノ・ベイ Act.1 _6

Category : volcano bay

(五)

「ねえ」 牧場の柵に体を預け、杏がふくれっ面で振り向いた。
「中入っていい?」
「ダメ」
「……ケチ!」
「何と言われようとダメ」
「こんなに通い詰めてるのに?今日でもう二週間だよ?」
「毎日じゃないし」
「毎日来れば入れてくれるの?」
 思わず食いつく。……が、
「ダーメ」
「ちぇッ」
 杏は柵の中にいる青年に舌打ちをして、カメラのファインダーを覗き込んだ。古いニコンの一眼レフ。デジタルでもない。女子高生が持つにはあまりに不似合いな代物だ。
「ホントは撮影もダメなんだけど。ま、それくらいは大目に見てやるよ」
 青年――遊馬は柵にもたれ掛かり、空を見上げて欠伸をついた。杏と出会ったのが二週間前。以降、彼女は時折カメラを手に遊びにやってくるようになった。
「飛行機雲が見えるな。明日あたり雨かもな」
 カシャ
「そういや友達は?最近見ないけど」
 カシャカシャ
 小さなシャッター音だけが返ってくる。
「……やれやれだ」
 遊馬は煙草に火を付けた。その横を白いライトバンが通り抜けていく。
「お前さ」
 カシャシャ
「飽きたりしないのか?」
 カシャ
「あ、そう」
 呆れ顔で煙をくゆらせる。こうなるともう何も通じないことは、ここ数日で体験済みだ。杏は片膝をつき、見上げるようなアングルでカメラを構えた。そしてシャッター音。ポニーテールに括った髪が風に靡く。杏が動くたびに白い太ももがスカートの間から見え隠れした。
 杏が見つめる先には、幼い顔をした栃栗毛の仔馬がいた。二週間前とは違い、誰に邪魔されるでもなくのんびりと草をはんでいる。時折尻尾を振ってハエを追い払ったり、白樺の向こうに見える有珠をぼんやりと眺めてみたり。
「ぴー子ってさ」
 カメラを覗きながら杏が言った。
「お茶目だよね」
「お茶目……」 遊馬は思わず表情を崩した。
「今時使うか?そんな言葉」
「いいじゃん別に」
 何か文句でも?と遊馬を睨む。
「この子もやっぱり競走馬になってデビューするの?」
「順調にいけばね」
「そっか」 ようやく杏はカメラを下げた。
「颯爽と緑の絨毯を駆けるサラブレッド……素敵ね」 ふっと眼差しを緩める。
 遊馬は大きく煙を吐き出し、煙草をブリキのバケツに放り込んだ。
「言っとくけど、サラブレッドならどんな馬でもデビューできるってわけじゃない。セリで主取りが続けば、ただの家畜でしかないんだ」
「ぬしとり?」
「買い手が付かないことさ」
「その時はどうなるの?」
「生産者に馬主の資格があれば所有馬として走らせることもできる。けど、そうでなければ処分するしかない」
「処分……」 杏の顔がさっと凍り付いた。
「それってつまり」
「ああ。そんな馬を何頭も見てきたよ。うちの牧場でもそうだった」
「え」
 杏が心配そうにぴー子を見る。
「ああ」 遊馬はヒラリと手を振った。
「俺の実家は静内の小さな牧場でね。わけあって今はここで働かせてもらってるんだ。まだ駆け出しだけどさ」
「わけって?」
「……おいで、ピー子」
 遊馬は杏の問いを軽く流し、作業着のポケットからニンジンを取り出した。タタッとピー子が駆け寄ってくる。まだ仔馬とはいえ、既に杏と同じくらいの丈がある。鼻を鳴らして甘えるピー子のたてがみを撫でながら、遊馬はニンジンを手のひらに乗せて食べさせた。
「この子は心配ないよ。この子の兄ちゃんはファイアスターと言ってね。中央競馬で活躍してるんだ。セリに出せばきっといい値が付く」
「そっか」
 杏がカメラを構えようとすると、厳しい顔つきの遊馬と目が合った。
「……ごめんなさい」
「馬ってのは臆病な動物なんだ。物音や見慣れない物を極端に怖がる。この前の放馬を覚えてるだろ?」
「うん」 杏が肩を落とす。
「ま、でも、どうやらお前は好かれているみたいだな」
「分かるの?」
「まあね。でなきゃいくら俺が一緒でも近づいてこないさ」
 遊馬はひとしきりニンジンを与えると、再びピー子を牧場に放した。
「兄ちゃんの活躍次第では、あの子に数千万の金が動く場合だってある。場長がピリピリするのも当然だよ」
「場長って?」
「この前怒られたろ?」
「ああ」 杏はあの無精髭を思い出した。
「遠目からの撮影は特別に許す。ただし俺がいる時だけだ。その他は禁止。フラッシュも絶対にダメ。いいな?」
「うん」
 分かった。と頷く。もし自分のせいで何かあっては、とてもそんな大金を賠償できるはずがない。考えてみれば、まだデビュー前の仔馬をこんな間近で見れること自体あり得ないことなのかも知れない。
「数千万か……」
 杏は溜息をついた。
「馬産って儲かるんだね。牛や豚じゃそうはいかないもの」
「まさか!」 は、と遊馬は鼻で笑った。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

うう~ん

やっぱり素敵♪楓さんの小説、なんだかとっても読みやすくって、でも物足りなさもなくって。すごーいです♪^^

先の話で浅見さんと杏ちゃん、すれ違いましたね!そうですよね!?
でも。実際こういうことって、あるんだろうなぁと。なんだかんだで世間って狭いですし、私はなんといいますか…やっぱり近しい者同士は引かれ合ううのでは。と思っちゃうので^^;

それにしても。杏ちゃんと遊馬くん、これからどんな進展があるんでしょ?うふふ~♪仲良くして欲しいな^^なんて願ってしまうのは乙女ゴコロからかしら(笑)

今、がこんなにも平和だから。
これから起こること。本当に怖くて…目を背けたくなっちゃいますが><
うん。がんばって読んでゆきます! ←

また来ますね~♪

>chachaさん

おはようございます。
素敵コメントありがとうございます♪
いつもパワーもらってます。

はい。すれ違いました。
ドラマでも良く使われるパターンですが、実際こういう事ってありますよね。うんうん。それに、この出会いそうで出会わない感じのシチュエーションがまた萌えていいかなと。笑
遊馬と杏については、まあ……秘密です。ぐふふ←
今は嵐の前の静けさ、というヤツですね。プロローグをああいう書き出しにした効果が出てくれていれば幸いです。頑張って読んで下さい!僕も頑張ります。

そうそう。
テンプレの件ですが、実は文字サイズを一回り大きくし、文字色も白っぽい灰色から白に変えてみました。少しは読みやすくなったように感じるのですがいかがでしょう?やっぱテンプレごと変えた方がいいですかね?(^_^;)
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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