スポンサーサイト

Category : スポンサー広告

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ボルカノ・ベイ Act.1 _8

Category : volcano bay

(六)

 底冷えのする館内の床一面に、内浦湾の航空写真が描かれている。浅見はその脇に立ち、足元に広がる洞爺の町を見下ろした。
「鳥にでもなった気分だな」
 ポキリと首を鳴らす。こうして見ると、いかに有珠山とその周辺がいびつな地形をしているかがよく分かる。まず、陸の真ん中にまるで目玉焼きのような穴が開いている。洞爺湖だ。洞爺カルデラは約十万年前の最終間氷期に数回の噴火を経て形成された。洞爺湖はその中に淡水が流れ込んでできたカルデラ湖である。それから、湖の南には、今なお白い噴煙を上げる火山が見える。特徴的なのは色。外輪山の中だけが赤茶けている。噴火によって流れ出た溶岩の中の鉄分が酸化したためだ。多くの活火山に共通する現象だが、見ていてあまり気持ちのいい物ではない。
「いたいた」
 頭上で声がした。
「そろそろ講演の時間ですよ」
 吹き抜けになった二階の手すりから三浦が顔を出す。その横の階段を講演のパンフレットを手にした婦人達が賑やかに上っていく。どれくらいの公聴者が集まっているのかは分からないが、少なくともゼロと言うことはなさそうだった。
「今行く」
 浅見は懐から煙草を取りだし、「一本だけ待ってくれ」と言って外に出た。
 乾いた空気が肌を刺す。浅見は細長い煙を吐き出し、煙草の灰を指で弾き落とした。振り向けば、そこには雄大な有珠の山並みがたたずんでいた。静かだった。いつも思うことだが、こうしているととてもこの山が猛々しく噴煙を噴き上げる姿など想像できない。しかし、火山泥流を食い止める砂防ダムや導流堤が設けられた山肌は、過去どれほど多くの人々の営みを飲み込んできたかを何よりも雄弁に物語っていた。
「動かざること山のごとし、か」
 浅見は呟いた。孫子の兵法にある有名な言葉だ。速きこと風のごとし、静かなること林のごとし、侵略すること……
「火のごとし」
 と小さく口ずさみ、浅見は煙草を灰皿に押しつけた。数十年後、あるいは明日起こるかも知れない有珠の烈火から人々を……愛する家族を守る。それが自分の死命なのだと深く息を吸い込む。
「さて」
 浅見は頬を叩いて気合いを入れると、有珠の山を背に講演会場へと姿を消した。

 * * *

 その一時間後、自転車に跨った一人の少女がビジターセンターの前を通りがかった。前かごに鞄を放り込み、肩から古い一眼レフのカメラをぶら下げている。
「あーもう!」
 杏はセンターの前に自転車を止め、こぐたびに太ももに当たるカメラを持ち直した。ショルダーが長いのだ。短くしようと何度か試してみてもなかなか巧くいかない。
「やっぱコレ用の鞄がいるなあ」
 杏は自転車かごで傾いている薄い学生鞄に向かってため息をこぼした。もちろん、それで学生鞄が膨れてくれるわけじゃない。かと言って、カメラをむき出しのままかごに放り込むわけにもいかない。
「まったく」
 諦めてもう一度カメラを肩にさげた杏は、ペダルに足を掛けたところで動きを止めた。
 ちら、と横を見る。ログハウスをイメージした真新しい建物の入り口に小さな受付がある。杏は少し迷ったあと、自転車を降り、受付に向かって歩き出した。
「あの……」 と受付に声を掛ける。
「いらっしゃいませ」
 閑散とした建物には不似合いなほど可愛らしい声が返ってきた。
「お一人様ですか?」
「あ、いえ」
 杏は一瞬躊躇ったものの、気を取り直して受付のお姉さんの顔を覗き込んだ。
「お手洗いお借りしてもいいですか?」
「ええ」
 角田、と言うネームプレートを付けたお姉さんがニコリと微笑んだ。
「そちらの階段の奥になります」
「えと、お金いります?」
 杏はよいしょとカメラを掛け直し、ポケットの財布に手を伸ばした。受付窓の上には、入館料大人600円と書いてある。お姉さんは首を振った。どうぞ、と言うことらしい。
「すみません」
 杏は小さく頭を下げ、少し気まずそうにトイレに向かった。
「綺麗な建物」
 トイレから出てきた杏は、グルリと館内を見回した。存在は知っていた。牧場からの帰りに必ず前の道を通るのだ。けれど、中に入るのは初めてだった。壁に有珠山の写真が飾ってある。外輪山の散策道や、昭和新山、オガリ山の写真、そして、大噴火を起こした時の生々しい写真も。足元を見れば、床一面に有珠山周辺の航空写真が引き伸ばされていた。
「まるで鳥になった気分ね……いけね!」
 杏はタダで中に入れてもらったことを思いだし、足早に出口に向かおうとした。とその時、不意に二階から声がした。マイクを通した声だ。学校の始業式に体育館で話す校長先生のくぐもった声と良く似ている。
「何かやってるんだ」
 顔を上げると、階段の脇に立て掛けられた案内板とパンフレットに目が止まった。
『有珠山・噴火の歴史 -2000年噴火を振り返る-』
 どうやら有珠山の噴火について講演が開かれているらしい。もちろん、杏も2000年の噴火のことは知っている。けれど、それはまだこの町で暮らし始める前のことだった。
「ふうん」 と呟き、杏はその横を通り過ぎようとした。用も済んだのにいつまでもウロいているわけにもいかない。
「ありがとうございました」
 受付のお姉さんに頭を下げ、カメラを手に出て行こうとした。ところが、
「え……?」
 また杏の足が止まった。さっきと同じ案内板が館の入り口にも置いてあった。講演のタイトルも同じだ。そのタイトルの横に講師の名があった。
『講師:浅見真一』
 肩書きに札幌管区気象台火山監視センター主任とある。よく見れば小さく写真も載っている。
 見間違うはずもない。
「……パパ」
 カメラを握りしめ、杏はポツリと呟いた。

>>次へ

テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

あうっ

次へ>>を押したのに~

どうする、杏ちゃん!!!
という気分です!

ここで交錯するのかな!?それとも、お預け!?
杏ちゃんが、どんな想いを浅見さんに持っているのか、
家族の過去がわかるのかしら?!

うう~ん、期待一杯で、続きを待ちます!!!

それにしても、同じ写真を見て同じことを呟く。
親子の繋がりをちょこちょこと見せてくれます♪心憎い~(^∀^)

>らんららさん

どもです^^
すみません。今日はここまで~
これ以上ペースを上げると、あっという間にストックが尽きまするる(汗

微妙にすれ違っていた二人。
少しずつ接点を持つようになるのでしょうか?
……さあ?をい

写真のことに触れてくださりありがとです。そういう小ネタ?が好きな著者です。どーでもいい、誰も気付かないような伏線とか。隠し味の隠し味みたいな(笑
そういうの好きなんですよ♪
非公開コメント

enntry & comment
access ranking
[ジャンルランキング]
小説・文学
10109位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
2740位
アクセスランキングを見る>>

FC2小説ブログ にほんブログ村 小説ブログ
profile

楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

counter

※二度踏みノーカウント
link
seach word

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。