スポンサーサイト

Category : スポンサー広告

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

冒険物語

Category : 完結作品リンク

その者青き石を持ちて天に一本の矢を放ち、大地に永劫の安らぎを与えん。
安ぜよ。
されど奢るなかれ。
海神(ワダツミ)の灯未だ消えず。
安ぜよ。
されど忘るなかれ。
八又の炎、永遠(とわ)にあらず。

――伝記『一本の矢』より。


* * * * *


 星暦2006年春。
 三階の窓から見下ろす景色は、すっかり春の陽気を浴びていた。
「ふわ」
 若草色の木々と煉瓦造りの家並みを眼下に眺め、あくびをかみ殺す。大学の構内を流れる風はひときわ穏やかで、まるで小悪魔のように「おやすみ」と囁きかけてくる。
(ダメだわ)
 先ほどから始まった午後一の授業を聞きながら、ファイはうとうとと居眠りを決め込むことにした。夢を見る。それも同じような夢を、最近よく見るようになった。そういえば昔……確か、十歳の誕生日に母親から紺色のペンダントを譲り受けたときにも、同じような夢を何度か見た。
(もう何年も見なかったのに)
 どんどん睡魔に思考能力を奪われていく中で、ファイはそんなことを考えていた。

「三十三年前、当時まだ未開の地だったノズベルク地方の探索に当たっていた飛行艇士が、密林の中にぽっかりと大きな穴が空いていることに気が付いた」
 遠くで声が聞こえる。講義は考古学。これほど心地よい子守歌も他にない。
「のちに調査団が派遣され、その穴は古代アシュテカ文明の遺跡であることが判明した。こらぁ!寝るなぁ!」
 新任教師のロバートが熱弁を振るう。……が、生徒の半分はすでに春の陽気に誘われて頭を垂れ、授業の事などどこ吹く風だ。
 ごほんっ!
 ロバートはわざとらしく大きな空咳をはさみ、にがり顔で続けた。
「その穴はどんどん奥へと広がり、小さな街一つ分くらいの広さの地底都市が形成されていたことが発見された。これがかの有名なサルーラ遺跡だ」
 カツカツと黒板に走らせるチョークの音だけがむなしく響く。
「各国の調査団は遺跡から様々な物品を持ち出したが、考古学者が特に注目したのが様々なレリーフに描かれていた古代文字、つまりエイシェントログだった……おーい、ここ試験に出すぞぉ!」
 手の平でバンと黒板を叩きながらロバートが言うと、ようやく何人かが慌ててノートを取った。
「ログの研究は遺跡発見以前から行われていたが……」
 ロバートの渇に一瞬反応したファイではあったが、
(……無理。眠すぎ)
 机に肘をついたまま、いよいよ耐えきれずに目を閉じた。

 夢……。またあの夢だ……
 ファイは春風を頬に受けながら、最近よく見るようになったあの夢を追いかけた。窓から見渡せるシティの街並みと良く似た煉瓦造りの家並み。少し傷んだ石畳の道。そんなに豊かではないけれど楽しげに暮らす街の人たち。石畳の道を登っていくと、左手に小さなパン屋。そしてその先の小高い丘。
(……ここは?)
 夢の中のファイは、その街の中をふらふらと彷徨うように歩いていた。丘の上にログハウスがある。
(……おかしい、今日はいつもより鮮明に夢を見てる)
 ファイは夢の中で首を捻った。
 ふと、そのログハウスから一人の青年が飛び出してきた。顔は……夢のせいか良く分からない。青年はファイに向かってニコリと微笑み、右手をファイに差し出した。
(誰?)
 ファイは今まで見たことがない夢の続きを見ていることに戸惑った。青年の顔はぼやけたままだ。けれど、なぜかこう、落ち着くというか、とろけるというか……その不思議な感覚に、ファイはドキドキと鼓動を早めた。すると青年が振り向いて言った。
「行こう、ファイ!」
 少し離れて立っている青年の声が、なぜかはっきりと耳に届いた。

 ファイ……
 ……ファイ
 ……
「ファイ・アシュレイ!」
 ファイはその声にはっと目を覚ました。
「はひ?」
 教室がどっと沸いた。
「132ページ」
 いつの間にか横に立っていたロバートが、にやりと意地悪く微笑む。
「すみません」
 ロバートは首をすくめたファイのノートに目を留めると、それひょいと手に取り、
「で、だ。レリーフには……」と、そのままゆっくりと教室をまわるようにファイの席を離れ、授業を再開した。
「はあ」
 ファイは自分のノートを取り上げられた事など気が付かない様子で、ぼーっと視線を窓の外に漂わせた。
『行こう、ファイ!』
 夢の中に登場した顔も素性も分からないあの青年の声が、どうしても耳から離れなかった。

>>全編へ

テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

非公開コメント

enntry & comment
access ranking
[ジャンルランキング]
小説・文学
10109位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
2740位
アクセスランキングを見る>>

FC2小説ブログ にほんブログ村 小説ブログ
profile

楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

counter

※二度踏みノーカウント
link
seach word

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。