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ボルカノ・ベイ Act.1_10

Category : volcano bay

 家に帰ると、三階建てのアパートの下に母の自転車が止まっていた。
「まだ家にいるんだ」
 確かこの時間は旅館のはずだった。ひょっとすると、シフトの時間が少しずれたのかも知れない。
「入るかな」
 杏は呟き、無理矢理カメラを学生鞄に詰め込んだ。薄い鞄がいびつに膨らむ。明らかに変。
「やっぱ鞄欲しいな」
 独りごちてチャックを上げていると、
「あら杏」
 と母の雪乃がドアから顔を出した。
「ちょうど良かったわ。今から旅館に出るから後はよろしくね」
「あ、うん」
 杏は慌てて鞄を背中に回し、ぎこちなく笑って見せた。
「どうかした?」
「ううん。いってらっしゃい」
「ご飯はレンジに入れてあるから。ちゃんと勉強するのよ」
「分かってるよ」
「じゃね」
「うん。気をつけて」
 杏はジーンズ姿の母を見送り、ホッと溜息をついて靴を脱いだ。
 自分の部屋に鞄を置き、短い廊下を歩いてダイニングに向かう。体をずらしてテーブルと食器棚の間を抜け、冷蔵庫からお茶を出す。えいと足で椅子を引くと、大きくもない電話台に背もたれが当たった。
 まずはテレビ。
「うーん」
 一通りチャンネルを変えて電源を消す。
 次に夕飯のチェック。肉じゃがコロッケ。
「ありがとう!ママ!」
 杏はクルリと小さくスカートを翻らせ、再び自分の部屋に落ち着いた。
 窓を開けて椅子に腰掛け、パンパンになった鞄からカメラを出す。それを引き出しの奥にしまい込み、制服のままベッドの上に寝転がった。
「はあ」
 つい溜息が漏れる。
 気にしないでいようとしたって、どうしても父の顔を思い出してしまう。考えるなと言う方が無理な話だ。いっそママに話してみようか、なんて考えてみる。そしたらママはどんな顔をするのだろうか。「あの人の話はやめて」とでも言うのだろうか。
 そもそも、と杏は思うことがある。そもそもどうして二人は別れてしまったのだろう。何度か聞いてみようとしたことはあった。でも、結局ちゃんと聞けなかった。恐いとか、不安とか、そういうのとも少し違ってて、何というかこう、巧く言えないけれど。

「何これ、すっごいモヤモヤする」
 杏は天井を睨んだまま頬を膨らませた。今すぐにでも美月にメールしたかったが、あいにく今は塾の時間だ。送ったところであと一時間は返ってこない。
「美月のバカ」
 八つ当たりにも程がある。また美月に怒られそうだ。
「パパのバカ」
 杏は言い直し、ため息と一緒に枕に顔を埋めた。
 途端に父の顔が脳裏に浮かんだ。少しトーンの低い、ちょっと渋めの声がよぎる。
「あー……もう!」
 ふるふると頭を振った後、突然「そうだ!」と跳ね起きた。
 やおら起き上がった杏は、鞄の外ポケットに手を突っ込み、中から分厚い封筒を取り出した。逆さにすると、三十枚ほどのプリント写真が出てきた。写真屋で現像してもらったのだ。もちろん、ちゃんとお金を払って。
 杏はもう一度ベッドに仰向けに寝転がり、それを一枚ずつかざしてみた。
 ピー子。
 これもピー子。もさもさと草を食べている。
 かと思えば、次の写真はひょいと顔を上げた瞬間をとらえた力作だ。
「可愛い♪」
 杏はゴロリと体の向きを入れ替えた。
 ピー子。
 また。これもピー子。
 ふわりと舞い込んだ風が、ベージュのカーテンをなびかせる。
 ピー子。
 牧場の夕焼け。
 ピー子。
 ピー子のお尻。
 あ、美月の変顔。
 笑いながらめくった最後の写真に、杏はふっと笑顔を収めた。他の写真を枕元に落とし、小首を傾げてかざした写真の縁を指でなぞる。
 そこには、優しい笑顔でピー子を見つめる、遊馬の横顔が映っていた。

>>次へ

テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

あら~??

いつの間に遊馬くんの写真をっ!この~っ!←
いいですね。この文体、本当に好きです^^
ピー子。これもピー子。ピー子のお尻。
写真を眺めている時って、本当。頭の中はこんな感じです♪

それにしても。
そっか。やっぱり杏ちゃんは両親の離婚の原因を知らないんですね…
そして、私も知らないのよ…(笑)
気になる気になるっ!うーん、以前にちらっとその辺りが見え隠れしてましたが、確信は持てませんし。杏ちゃん同様、頬を膨らませております(え

カメラの件、ママさんにゆってないのね?
見つかったら何かやばかったりするのかなぁ?う~ん…怖い(笑)

また来ますっ♪^^

>chachaさん

こんにちは。
でしょ?いつの間に杏ってば(笑
僕も写真を繰っている時ってこうなります。すごく機械的で断片的。だけど、頭の中ではその瞬間その世界に入り込めるから、雑念を忘れることができる。今の杏にうってつけでした。

ご指摘の通り、杏は離婚のわけを知りません。もちろん、chachaさんにもまだ言っていません(笑)。前に少しだけ、雪乃が漏らしかけた場面はありましたが、核心にはまだ触れていません。

実はこれにてAct.1は終了でして、次回更新からAct.2になります。その中で、離婚のこと、それから杏のカメラのことについて少しずつ語られていくことになります。

ところでchachaさん
ご存じかと思いますが、例のトーナメント、何とか期限ギリギリでインビジブル・ブルーの移稿を終えることができまして、遅ればせながら小生も参戦してみました。今回のは内容が内容なので、もしかしたら1回戦で消えるかも知れませんが、一緒にトーナメントを楽しめたらな♪と思っています。

くふふ、ピー子♪

おはようございます、楓さん^^

うふふ、ピー子♪
うんうん。ピー子のお尻。
言葉の繰り返しが、凄く可愛い♪
可愛いピー子が、相乗してもっと可愛く感じられますね^^
そしてそして、遊馬くんの横顔写真~っ!
ドキドキしてしまいましたーっ。
思わず、私まで微笑んでしまった……
笑顔を収めて、かざした写真の縁を指でなぞる。
なんだかもう、凄く素敵な描写。
楓さん、もしかして実は女子高生……(笑

お父さんと会ったり、離婚の原因は何かともやもやしている杏ちゃんを切なく読んでいましたが、最後の辺りはニヤニヤが止まらなくなったkazuでした^^
ではでは♪

>kazuさん

おはようございます。
追いついて下さりありがとです♪
正直、どんだけピー子好きなんだwwwというくらいピー子の写真(^_^;)
でも、ちょっとは別の理由もあって牧場に行っているのかな?なんてね。そういうのがあってもいいかなと。と言うか、逆にない方が不自然でしょ?

最後の描写に共感してもらえて嬉しいです。
どうひっくり返したって僕は女子高生にはなれないので、明らか男目線の非現実的な女性になってしまっていないか、そこは凄く気になります。特に仕草、言葉遣い、そして気持ち。「あー、これ絶対男の人が書いてるわ」と思わせないだけのリアリティが欲しいのです。そこはねー、永遠の課題なんですよね~

これにてAct.1終了です。
主要人物で登場していないのは、あと一人かな。
Act.2ではいよいよ……いやいや(どっち?wwwww

指でなどる~♪

微細な動きでも、大人には分かってしまうのですよ~杏ちゃん♪
また分からせる楓さんってば、さすが♪

お父さんが占めていた場所が、ふわっと牧草の香り漂う風と共に
遊馬君にとってかわられちゃいました(^^)
過去と未来、を見つめるように。
受験を控える時期って、これからの自分をたっぷり考えさせられて、ちょっと食傷気味だったりしますよね。
どうしたいって言われたって困る、自分が一番知りたいこと。
そこに過去の象徴でもあるお父さんが現れたら、きっと、杏ちゃんのこれからに対する見方にも影響が出そうですね~!!

ああ、続き。
楽しみにしています♪
それから~トーナメント。
chachaさんとこで、投票の仕方がわからなくて大騒ぎしちゃいましたが。
無事、何とかなりました!
一回戦はどうなのかと思いつつ。二回戦では一応、ほとんど目を通して、まじめに投票してみました。(月末で、銀行の待ち時間がたっぷりあったので…)
そろそろ次が出ているのかな?
応援するだけでも十分楽しいですね♪

>らんららさん

こんばんは。
そうですよね。ふふふ。
しかも杏はどうやら割と分かりやすいタイプのようで。笑

父の記憶が過去で、遊馬は未来。言われてみればなるほどなるほど。その対比は面白いですね。めもめも。ちょうどこの頃になると、親よりも友達、同年齢を選び出しますよね。ただでさえそうなのに、六年も前に離れた父親となるとなおさらなのかもしれません。

>どうしたいって言われたって困る、自分が一番知りたいこと。
そうなの。それが言いたい(をいww
すぐに答えを出せという学校にも問題はあるのかもしれませんが、やはり一番大事なのは話を聞いてくれる存在があるかどうか。よく助言者がいてくれるかどうか、という気もします。さて杏、がんばれ!

次章Act.2からは少しずつ核心に近づいていきます。楽しみにしてくださりありがとうございます。頑張って書きます♪

投票、今度はぜひらんららさんも応募してみてください。結構面白いですよ。あと、投票結果は深夜12:00に開票後すぐに次の組み合わせがランダムで決まるようです。
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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