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カシオペヤ

Category : 完結作品リンク

プロローグ

 いつも星空を眺めていた。
 凛と冷えた夜空はどこまでも透き通っていて、決して飽きることはなかった。

 冬の至宝シリウス
 夏の恒星ベガ
 奇跡の星アークトゥルス
 北天の宝石アルビレオ
 季節とともに移ろう星空は、まるで宇宙の宝石箱のように美しい。
 とりわけ夏の夜空は特別で、天球にきらめく天の川を、僕はいつまでも見つめていた。

 『死者を乗せて走る列車、銀河鉄道』
 そのイーハトーヴ童話に登場する列車に乗ることが、子供の頃からの夢だった。
 それこそが失ってしまった大切な人と再会できる唯一の光なのだと、
 温もりに包んでもらえるたった一つの方法なんだと、
 ずっとそう、信じていたから。


 2009年夏――

 紺碧の夜空の下、空っぽになった心を引きずるように、僕は一人草原を歩いていた。坂道の中ほどで息を整え、左手に本を持ち替える。真夏にしてはひどく涼しい夜だった。
「もう少し」
 前髪をかき上げ、まっすぐに続く砂利道の先に目を向ける。
 丘の上に建つ白い小屋。その背後には満天の星空が広がっていて、まるで小屋だけが夜空に浮かんでいるようにも見えた。
「ただいま、玲奈」
 ようやく丘の上にたどり着くと、僕は小屋に向かって声をかけた。
 なぜかそこに彼女が居るような気がした。
 幻じゃない。夢なんかでもない。すぐ側に手を伸ばせば届きそうな温もりを感じて、もつれるように歩を進めると、突然足元の露草が風に揺れ、音もなく夜空に舞い上がった。
『おかえり』
 ふと、近くで声が聞こえた。
「玲奈?!」
 咳き込むように見上げると、うしかい座のアークトゥルスが僕を見下ろしていた。
「……まさか、ね」
 僕は乾いた笑いをこぼし、崩れるように丘の上に寝転がった。
 四肢を投げ出し、耳を澄ます。風の音、夏草の囁き、それに、微かに奏でる鈴虫達のさえずりが、火照った体を静めていく。
 北極星が見える。
 それだけじゃない。今夜は一段と星がよく見える。まるで降ってくるようだ。そのあまりの星の数に、僕の心がサワリと騒いだ。

 今でもはっきり覚えている。五年前、初めて玲奈とこの丘に登った夜も、同じように星で溢れていた。
『私の家の側にとっておきの場所があるの。ねえ、今から見に来ない?』
 あの日、玲奈はそう言って僕に笑顔を向けた。
 愛らしい彼女の仕草や声、初めて交わしたキス。生涯変わらぬ愛の誓い……。どれだけ月日が流れても、決して色あせることのない記憶が次々と蘇る。
 僕はおもむろに体を起こし、小屋のノブを回した。ギギ、と軋んで開いた扉から、月に照らされた僕の影が伸びていく。部屋はまるで夢見の森のように静まりかえり、木組みの床に落ちた小さな埃でさえもが、淡い燐光の中でキラキラと輝いて見えた。
 六畳ほどの小さな部屋。
 その真ん中に、青銅色の天体望遠鏡がたたずんでいた。
「……お邪魔します」
 僕はそろりと足を踏み入れ、その望遠鏡の横をすり抜けて、部屋の隅にある机の上に手にしていた本を置いた。それからシャツの襟を緩め、ガンッと固い窓の木枠を押し開く。
「今日は星祭りですよ」
 誰に言うでもなく呟き、窓から身を乗り出して銀色に彩られた街を一望すると、夜空と同化した街のそこかしこに、家々の灯りや街路樹の電飾が見え隠れしていた。
『まるで星空みたいでしょ』
 玲奈の言葉を思い出す。
 窓枠に両肘を乗せ、嬉しそうに微笑む横顔に、僕は何度見とれたことだろう。
 僕は再び本を手に取り、天井部屋へと続く階段に足をかけた。床板を鳴らし、微かに埃の匂いが漂う階上に足を踏み入れると、夜空をしらしらと流れる天の川が、天窓いっぱいに広がっていた。
 子供の頃、いつも星空を眺めていた。
 遠い記憶が蘇る。
 いや、今だってそうか。などと苦笑混じりに腰を下ろし、板張りの床に触れてみる。――そこにはいつも玲奈がいた。
 未だに彼女の残像を追いかけている自分に苦笑いを浮かべ、僕は瞳を閉じた。
 玲奈はもう、この世には居ない。
 いくら頭で理解しようとしても、心がそれを受け入れない。鮮明に焼き付いた彼女の姿が、声が、僕の心に染み込んで離れないのだ。
 僕は狭い天井部屋の壁にもたれ掛かり、本を星空にかざした。
『銀河鉄道の夜』
 表紙にそう刻印された本の輪郭が、夜空と混ざり霞んでいく。

 ――ケンタウル祭の夜、牧場の丘の上で、ジョバンニは天の川を走る列車に乗り込む。そして、期しくも乗り合わせていた親友のカムパネルラと共に銀河を旅し、やがて列車を後にする。そして知らされるのだ。彼は、カムパネルラは死んだのだと――

 死者を乗せた列車、銀河鉄道。
 もしこの世にそんなものが存在するのなら、どうか神様、今僕の目の前にその幻想的な列車を呼び、そして玲奈に会わせて下さい。彼女に伝えたい言葉がある。言葉にできない思いが、あの街の向こうの山ほどもあるんです……
 星空を見つめる僕の目尻を、一筋の涙が伝い落ちた。
「……玲奈」
 麦わら帽子から顔を覗かせ、くすくすと微笑む妻の顔が浮かぶ。
『オズベル』
 彼女の澄んだ声が耳に響く。
 玲奈、玲奈、玲奈……
 ふと我に返り、指先に付いた埃を見つめたその時、
 ――ズバンッ!!
 と突然、天窓から強烈な光が差し込み、部屋中が真っ白に輝いた。
「うわッ?!」
 何が起こったのか分からないまま、必死に手をかざす。激しい暴風に小屋が揺れ、再び網膜が焼けるような閃光が走った。髪の毛は乱れ、服は激しく波打ち、まともに体を支えることすらできない。壁を伝い、懸命に階段を降りると、今度は地鳴りのような震動音がどこからともなく聞こえてきた。
「いったい……ぐっ!」
 息つく間もなく横殴りの突風に煽られ、よろめきながら小屋を出る。柱を背に縦横に吹き荒れる強風に耐えていると、今度は列車の車輪が軋むようなけたたましい金属音が鳴り響いた。
 そして、みたび閃光。
「やめろ!」
 僕は叫んだ。
 僕の、玲奈の、そしてお義父さんの大切な小屋を傷つけないでくれと、光に向かって目一杯に両手を広げた。
 眩しい。だけど温かい。
 光の中で、僕は大きく目を見開いた。
 光はどんどん広がっていった。
 瞳孔が針のように絞られていく。
 やがて視界すべてが遮られたとき、僕の意識は体ごと閃光に飲み込まれて消えた。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

うふふ♪

こちらをUPしたということは、例のエントリーに参加されるんですね?(^_^)
うん。改めて読みましたが、やっぱり楓さん。ちゃんと自分の作風が出ていますよ~♪
楓さんは言葉選びにとてもセンスが光ってます!ピカリです☆
そして情景描写が美しい~!ふわ~ってなります(何それ

懐かしい作品に、何だか胸がウキウキしてきました( ´ ▽ ` )ノ
さて。みんな出揃いましたし、今回はまた楽しめそうですね♪うふふ♪

No title

こんばんわ、楓さん♪

カシオペヤ
先日読み切ったとこだったの。
うん、ウチこの作品大好きです。
好きな流れで話が進んで内容も・・(*^_^*)
すごいよ~これを楓さんが書いてるなんて!


また次読み始めますね(^_-)-☆

>chachaさん

こんばんは。
そうですね。今のところこれで、と考えているのですが、実はちょっと悩んでいます。冒険物語の続編として書いていた「魔女のランプ」というのがありまして、もはや幻と化してきた作品なのですが、それのプロローグで参加するというのもありだなと。
まあ、まだ日にちありますし、推敲もしたいし、もうちょっと悩もうかなと思います。

僕の作風、それとなくあるんですかね。
んー、確かに言葉選びと描写に関しては時々言われますね。
自分の体臭に自分では気づかないのと同じなんですかね?←たとえがww

トーナメント、今回も楽しんでいきましょう♪

>なぎちゃん

はいこんばんは。
カシオペヤ、読破してくれてあざーす!
気に入ってもらえて良かった。
好きと言ってもらえて幸せです。きっとオズベルもレナも喜んでいることでしょう♪

すごいっしょ~(笑
これを僕が書いているんですよ。あはは←
はい。どんどん遊びに来てください。待ってます♪

ああ!

魔女のランプ、覚えてますよっ!^^
確かまだまだ序盤の辺りで…なんか飛行機がぶーんとか…男の子が出てきたような…
あ、猫もいましたっけ?主人公がランプちゃんでしたっけ??
うわー!なんか無性に読みたくなってきたじゃないですかっ!(笑)
また載っけてくださいよぅ~続きはゆっくりでいいので…(ちゃっかり催促はする。笑

確かに。まだ時間はありますからねっ♪
じっくり考えましょう^^

体臭と同じ…`;:゙;`;・(゚ε゚ )ブッ!! 
例えに吹きましたが、でも、ナイスな例え(笑)
そうそう、そんな感じなんでしょうね~^^ ←

ちょっ、体臭って(笑

うんうん、確かに自分では気付きにくいもの、なのかも知れないですね。

楓さんの作品には、”楓さん”の作風があるなぁって思います^^
それでいて、こう、変化していくというか。
基本がどんっとあるからこその、安定感というか。
とにかく、羨ましいのですっ。
って、皆さんのコメにのっかっての感想になってますね。すみません^^;

久しぶりに拝見させていただいて。やっぱり、とても素敵です。
惹き込まれる文章と、脳裏に広がる描写と。
哀しみが漂う雰囲気に、とても切なくなります。


魔女のランプ!
ランプちゃん^^わわ、覚えてます覚えてます!
あとですね。
私、前にchachaさんのコメ返で拝見した「the street of London」、かなり楽しみにしています^^
近日?公開予定って書いてあったので、ちょっとワクワクと。
あ、そのトラウマも覚えてたり(笑

でも、いつか、本当に、皆さんで会えたら楽しいなぁて思います^^
そしたら、きっと周りがひくほどのマニアック話を四人で繰り広げるんだろうなと♪
あぁ、でもそうしたら素敵大人に混じる「老けた子供」が一人状態になるだろうこと請け合い。
それも楽しいかも。

長々と失礼しました^^
ではではっ

>chachaさん

こんばんは。
ランプを覚えてくださっているとは。
ええ、そうです。ぶーんって飛行機飛んでました。猫は惜しい!黒キツネです。さすがにそこまで覚えてたらビックリですけどね。笑

あれはボルカノが終わったら書くかもしれません。
かもって何よ?とランプに怒られそうですが、何度かプロット挫折しているいわくつきの作品でして(汗
だからまあ、せめてプロローグくらいは書いてあげようかとも思ったんですけど、んー、やっぱカシオペヤかな?あははは←

>kazuさん

こんばんは。
ふと思ったのですが、自分の作風って、実は自分で「こうだ」と言い切れるものではないのかもしれませんね。文章力は皆さん書くほどに上達されていると思います。kazuさんも、chachaさんも、らんららさんも、それはすごく感じます。僕もそうであるのなら、とても嬉しいです♪

あ、kazuさんもランプを覚えていらっしゃる。すごい。野いちごでは少し書き進めていた時期があって、その頃らんららさんは読んでいてくださったのですが、それなのに!ああそれなのに!らんららさんごめん!!結局プロットが気に入らず、途中で非公開にして二度目のお蔵入りに(^_^;)

「the street of London」は、ひそかに野いちごで公開しています。亀更新なのでもどかしいですが、あれはもう完全自己満足の世界なので。もし興味を持ってくださるなら、ぜひ覗いてみてやってください。そのうちこっちに移稿する可能性もありますが、はてさていつになるやら。

同窓会いですね。でも、もし実現したら素敵女子の中におっさんが一人(汗
櫻っちも呼びたいが実はイケメンっぽいしなあ

素敵女子!(笑

ふふ~。しっとりと、楓さんの美しい文章に浸ってここまで下りてきたら、なんだか楽しいことになっていますね!!
ランプちゃん!!!ええ、期待しているのですよ、箒をまたぐ短いスカートに。(←そこ!?
いつまでも、しつこく待ち続けますよ~♪

懐かしいです~♪
櫻っちはイケメンなのですか♪
ほんと、会えたら楽しそうだなぁ~(^∇^)
kazuさんもchachaさんも可愛らしい小柄な印象です。
小柄な女性は頭の回転が速くて、くるくる会話も表情も動いていく、という思い込みがあるんです♪私は大柄なので~のんびりゆったり。二人の会話の波に押し流されそうになりつつ、むくむくと楽しみます(笑
そこに楓さん…
…。
…。
想像がうまくできない~(笑
きっと、大人で話し上手。
よし、楓さんの体臭を感じて、想像力逞しくするために、
ボルカノの続き行ってきます♪

トーナメント、楽しみましょ~♪

>らんららさん

こんにちは。
ああ、そしてすみません。ランプ……せっかく読んでくださっていたのに!!あんなこと(どんな?)になってしまいまして。汗
そのうち、必ず!

櫻っちは何となく、イケメンな気がしません?
僕はおっさんです。しかもサッカーで週末になると黒くなっていきます。笑
話し上手、ではないなあ。
どちらかといえば、人の話をうんうんと聞く方が好き。

トーナメント、このままだといきなりベスト8をかけた一回戦になりそうですね。やっぱカシオペヤで応募しようかな。むむぅ
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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