スポンサーサイト

Category : スポンサー広告

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ボルカノ・ベイ Act.2 _3

Category : volcano bay

(二)

 五月も終わりに近づいたこの日、旅館「星街」の厨房は目の回るような忙しさに見舞われていた。
「そんないいモンかな?」
 千帆が仕込みの手を止めて首を傾げると、
「さあな」
 その横で若い男が顔を上げた。白い調理服に三角巾。さほど汚れが染みついていないところを見ると、彼も千帆と同じく駆け出しなのだろう。ただし、千帆とは違って彼の手は一秒たりとも止まらない。
「でもま、おかげで忙しくしてられるんだからいいっしょ」
「忙しすぎだし」
「暇よりましだろ」
 コキリと首を鳴らし、慣れた手つきでエビの背わたを取っていく。
「それに、手当出してくれるって女将さんも言ってたし」
「そーだけど」
 千帆が頬を膨らませていると、厨房の奥から雪乃が顔を出した。
「千帆さん、ちょっと」
「はーい」
 千帆はこれ幸いとばかりに手を洗い、割烹着を取って雪乃に駆け寄った。
「どうかしました?」
 屈託ない笑顔が跳ねる。その顔を雪乃が諫めるように覗き込んだ。
「なあにその顔。仕込みの手伝いも大事なお仕事よ」
「分かってますよ。で、何です?」
「……もう」
 小言の一つも言いたいところだが、今はそれどころではない。優先させるべきことが他にあった。
「お客様がいらしたの。ちょっと今手が離せないからお願いしていいかしら」
「はーい」
「女将さんもまだ戻られてないし、くれぐれも粗相のないようにね」
「任せて下さい!」
 踵を返して走りかける千帆の背に「ダメよ」と声を掛けると、途端に姿勢を正して歩き出す。そんな姿につい笑みがこぼれる。千帆を見ていると、娘の杏と姿がだぶる時がある。分かりやすい性格が重なるのか、単に年が近いせいか。とにかく憎めないのだ。

「さて、と」
 雪乃は表情を引き締め、再び事務室に引き返した。
 四畳半ほどのそれほど広くはない部屋に執務机が一つ。机には電話と帳簿が置かれ、その横にはパソコンが一台。目の前のホワイトボードには、今日明日の宿泊客の予約票が所狭しとセロハンテープで留められていた。それを横目に息をつく。
「そんなにいい物かしら?」
 雪乃は千帆と同じことを言いながら、パソコンに向かって眼鏡を掛けた。
 明日来館予定の顧客リストから、部屋の要望や食事の内容を確認して印刷する。客の半分は今日からの連泊だ。五月に入って観光客が増え始めたとはいえ、この時期に部屋がすべて埋まるなどそうあることではない。それが、この二日間で一組のキャンセルが出た以外満室の予約を受けていた。もちろん、これには理由があった。プリンタから吐き出された紙に赤ペンでチェックを入れ、「よし」と呟く。そこへ女将の沙織が顔を出した。
「ただいま」
「あら、もう終わったんですか?」
 雪乃が驚いた顔を向けると、沙織はニコリと微笑んだ。
「途中で抜けて来たの」
 旅館組合の会合から戻った沙織は、悪びれる様子もなくそう言うと、雪乃が印刷した紙に目を通した。
「西院社長はもう見えた?」
「まだです」
「そう」
 それは良かったわ。と悪戯っぽく微笑み、慣れた手つきで髪を結い直す。
「ビックリなさるでしょうね。社長」
「そうね。何でこんなに客が多いんだ!って言われそう」
 沙織は鏡ごしに笑い、「でも、さっきどなたか来られてたみたいだったわ」と雪乃を見た。
「ええ。千帆さんにお願いしました」
「予約のお客様?」
「と思いますけど。何せ今日は一部屋しか空きがないですから」
 そう言いかけた時、千帆が顔を覗かせた。
「雪乃さん……あ」
 お帰りなさい、と女将に頭を下げ、実は、と切り出す。
「さっきのお客様、予約なさってらっしゃらないんですけどどうします?」
「ならキャンセルのあったお部屋にお通し差し上げて」
「分かりました」
 千帆が頷いて姿を消す。
 すっかり身支度を調えた沙織は、一つ息を吐き出し、胸元で小さく拳を握った。
「これで満室御礼ね」
「流星群様々ですね」
「ホント。でも、そんなにいいものなのかしら?」
「みたいですよ」
 雪乃が答えながら事務所の隅に目を向ける。そこには、宿泊客が事前に送りつけてきた望遠鏡やキャンプセットのような物が幾つか積み上げられていた。
 明日の夜、『カシオペヤ流星群』なるものが見えるらしく、各地から観光客や写真家がやってきているのだ。もちろん、流星群自体は日本のどこからでも見えるのだろうが、緯度や天気、標高などを考えて、この地を選ぶ人が多いと聞いた。
 おかげで洞爺湖温泉街は、一足早い観光シーズンを迎えたような活気に湧いていた。

>>次へ

テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

きたきたー♪

やっぱり楓さん=星座(星)好きってイメージがあるので^^
うんうん、嬉しい~♪
確かにそんなイベントがあれば満室になっちゃうでしょうね★地方の祭りですら、ホテルやら旅館はお客でいっぱいになりますから^^
私も見たいです~素敵だろうな~

なんかですね。千帆ちゃん(さん?)が私の中でお気に入りになりつつあります(笑)こういった子がいる職場って、楽しいんだろうなぁ♪カワユイし☆

西院社長。また出てくるんですね、あのスケベおやじめ。←
この人が出てくると不穏な空気になるのは、やっぱり気のせいじゃないですよね?むむ。また何やら起こりそうだわ@@;

続きも楽しみにしてます♪てか、スケベおやじが何か悪さしないか見に来なきゃ!!><

くふふ(笑

chachaさんの、西院社長への言葉にぷっと笑ったkazuです。
どもです、こんにちは^^

そうだー、あのスケベおやじめ。(笑
西院社長という名前を見るだけで嫌悪感を覚えるのは、楓さんの人物についての描写が上手いからなんでしょうね。
うん、凄い。
だってもう、ホントに……名前だけで嫌悪感(笑

そしてそして、キャンセルの部屋に入った予約無しのお客様……。
誰だろう、誰だろうと、なんだかとても気になってしまいました。
気にしすぎ??(笑


カシオペヤ流星群♪
星は本当に綺麗ですよね。
見始めたら、止まらない。癒されるというか。
そしてそして、タイムリーにカシオペヤ☆
そちらも見いくのです^^
では!

>chachaさん

こんばんは。
カシオペヤ流星群は確か、本当は夏なんですよね。毎年夏に見える。でも、それだとちょっとアレ(どれ?)なので、それとは別の流星群に無理やり登場してもらいました。
いいですよね。流星群。杏のカメラ魂に火がつくこと請け合いです。笑

あら。千帆いいですか。
年は杏より一こ上の設定で、高校卒業と同時に見習い仲居になりました。物語は五月暮れなので、まだほんの二か月弱ですね。それにしてはえらく馴染んでいるようですが、これこそ彼女の性格のなせる業でしょうか。人懐っこくて愛嬌がよくて、裏表もなくて同性からも好かれるタイプ。そういう意味では少し杏に似ていますが、自分のしたいことを見つけ、自分の好きなように頑張っている千帆の方が突き抜けた明るさがあるのかもしれません。

西院間もなく登場です。
やらかすでしょうね、こいつは(笑
スケベ親父の監視、よろしくお願いしますね♪

>kazuさん

こんばんは。
西院、えらい嫌われようですね。
ま、当たり前か。僕だったら総無視かますレベルですねww
あそこまで突き抜けたキャラは、書くの楽だったりします。てか、もうとことん嫌われてやれ、というどエスな気持ちにもなってきます。あはは

おおお。
飛び込みの客に反応するとは、kazuさん、それはまだちょっと言えないですよ。ふふふ。まあ、次かその次くらいには何となく分かってくるはずですが、まだ言えないんですよ~♪
でもよく気付いてくださいました。ありがとです。
気のせいじゃないですよー!

星はいいですね。
子供のころ、天体望遠鏡を買ってもらって、よく夜空を見てました。田舎だったから、すごくきれいに見えるんですよ。
今でも天体望遠鏡が欲しくなる時があります。
賢治片手に庭に出ましょう♪

流星群!

星街の忙しさ、何事かな?と思ったら流星群だったんですね!
てっきり馬がらみのイベント(?)か何かかと……
確かに洞爺湖なら綺麗に見られそうですね。
作中のお客さんたち、うらやましいなぁ(笑)

予約なしのお客様、ちょっと気になりました。
もしかしてあの人?それとも新キャラクター?と、
勝手に想像を膨らませています。
誰なんでしょうか……楽しみに待っていますね。

あ、あと、西院の活躍も楽しみにしています(笑)

鋭い~♪

kazuさんの鋭いよみ、楓さんの反応♪
ああ、わくわくします~♪
飛び込みのお客様~だれなんでしょう!?

社長くるしぃ~(←千帆ちゃん?)
旅館で何やら起こりそうです!(@_@;)

流星群~好きだな~。
以前はお祭り騒ぎに乗っかって、星空デートを楽しんだものなのに…(遠い目…)
緻密でありながら過不足ない描写が、ほんと、心地よい♪
楓さんは最初からうまかったけど、推敲好き(でしたよね?)がさらに研ぎ澄まされた文章になってますよね~。この辺りが体臭かな。
くんくん。
わかった、描く女性がそれぞれ可愛かったり美人だったり、魅力的♪
それだ~!!(どれだ?…笑)

>沖川さん

こんにちは。
はい、流星群の仕業?でした。
この物語、馬の話で結構枠とってしまってますので、せめてこういうイベントくらいは違うものを入れたかったんですよね。で、大好きな星の話で落ち着いたと。
うらやましい!
そう、ホントに。僕もすごく見たい!

沖川さんも飛び込みの客に反応されましたか。さてさて、いったい彼はどんな人物か。そろそろサスペンスの色を出していけないなと思ったりしているところですし、まあそういう感じの人なのかな?うへへ←

西院は任せてください。
奴は放っておいてもやらかしますよってに。笑

>らんららさん

こんにちは。
kazuさんに見事つっこまれました。
しれっと差し込んだつもりだったんですけどね。
社長来ますね。
そして飛び込みの客もいますね。
そして千帆はぶつくさ言ってます。
これはもう、旅館で何か起こる兆候でしょうかね?ああう。起こるのでしょうかあああーーーーーっ!をい

てかデート!
デートって言いました?今!あふお
あ。
そか。
なるほど。
僕の体臭は推敲でした。え?日本語おかしいですか?笑
確かに、推敲ばかりやってるせいで、文章についてはなるべく簡潔に、無駄な装飾はせず、同じ単語は繰り返さず、リズムを奏でつつ、かつ必要な描写に手は抜かず、を心がけるようにはなりました。これは、冒険物語の頃は意識していなかったことですね。
趣味推敲(笑

女性を書くのは好きです。でも、中高生がすぐに先生や俺様やバンパイヤなイケメン男を書きたがるのと同じで、つい自分の妄想の中で美化された女性を書いてしまう。単調だな、と思う時があります。女性をあまり知らないから、仕方ないのかもしれないけれど(^_^;)
非公開コメント

enntry & comment
access ranking
[ジャンルランキング]
小説・文学
4473位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
1095位
アクセスランキングを見る>>

FC2小説ブログ にほんブログ村 小説ブログ
profile

楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

counter

※二度踏みノーカウント
link
seach word

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。