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ボルカノ・ベイ Act.2 _4

Category : volcano bay

 カシオペア流星群――正確にはペルセウス流星群は、本来夏の夜の風物詩で、例年なら8月中旬に日本中で見ることができる。長い年月をかけて太陽の周りをまわっている周期彗星で、その彗星が太陽に接近した時に蒔き散らした「塵の帯」の中を地球が通り抜ける時、流れ星が現れる。

「よく分からないけど神秘的ね」
 沙織は雪乃の説明を聞きながら、あら?と首を傾げた。
「今日はまだ5月26日よ」
「ええ、今年は周期がずれてるんですって」
 雪乃は千帆が面白半分で買ってきた『天体図鑑』を棚に戻しながら、「お客様がおっしゃってました」と付け足した。
「だからこんな騒ぎになってるのね」
 沙織が納得顔で着物の裾を直していると、
「こちらです」
 廊下から千帆の声が聞こえてきた。先ほどの客を部屋に案内するのだろう。
 足音が二つ聞こえる。一つは千帆、もう一つはお客。どうやら一人での宿泊であるらしい。物静かな人だとすぐに分かる。何年かこの仕事を続けていると、歩き方や足音、歩幅などで相手の人となりが自然と推測できるようになるから不思議だ。
「雪乃さん」
「はい」
 女将に促され、雪乃は事務所を出た。
 廊下を千帆が歩いてくる。客の顔は千帆の影になっていて見えなかったが、思ったとおり一人であるらしかった。よれたバッグを肩に背負い、振り返るようにしてロビーのテレビを見つめている。背は千帆より少し高い程度だから、男性にしては低い方だろう。
「ごゆっくりどうぞ」
 目の前を通りかかった客に頭を下げる。とその時、足音の一つがハタと止まった。
「……お客様?」
 千帆の戸惑った声が続く。
 雪乃はそっと顔を上げた。瞬間、言葉を失った。
 見知った顔がそこにあった。
 その顔は酷くやつれ、突然の再会に驚きを隠せない様子だった。
「雪乃」
 しゃがれた声で男が呟いた。
 雪乃は目を見開いたまま、よろりと一歩後ずさった。
「……誠二……さん」
 やっとそう呟いた雪乃の顔は、誠二と呼ばれた男以上に凍り付いていた。

 それからの雪乃は、明らかに様子がおかしかった。
「大丈夫ですかね?」
 様子を見に来た沙織に千帆が歩み寄る。
「雪乃さん、さっきのお客様と昔何かあったんですかね」
 知ってます?と尋ねる千帆の言葉をよそに、沙織はため息をこぼした。雪乃は夕膳の支度をしていた手を止め、どこを見るでもなく視線を落としている。
「雪乃さん……あの」
 千帆が声をかけてみたところで、返事が返ってくる様子もない。
「ほらほら、早くお膳を運んでちょうだい」
 沙織は千帆を追い立てながら、あることを思い起こしていた。
 かつて、沙織は同じような雪乃の姿を見たことがある。
 六年前――初めて彼女と出会った日のことだ。
 夫と別れ、行く宛を無くしていた雪乃は、小さい娘の手を取り、バス停のベンチで白い息を吐き出していた。目はどこか虚ろで、頬は窶れていた。元々白い肌がまるで粉雪のように色が抜けて、今にも風に溶けてしまいそうに見えた。
「どうしたの?」
 買い出しから旅館に戻る途中、沙織は雪乃に声をかけた。
「……いえ。何も」
 そう言った雪乃の唇は、カサカサにひび割れていた。
 それが先ほどの客――確か、田原誠二と言ったか――と関係があるのかは分からない。六年経った今でも、雪乃はあの時のことを語らないのだ。
「心配ね」
 沙織は千帆に「時々様子を見ててもらえるかしら」と言付けて事務室に戻っていった。
 腑に落ちないのは千帆だ。
「はあい」
 と返事はしたものの、何があったのか知りたくてしょうがない。かと言って本人に訊けるはずもなく、女将も話してくれる様子はない。
「ダメ。仕事が手につかない!」
 千帆が膨れていると、突然玄関の戸がガラリと開いた。と同時に、聞き覚えのあるだみ声が飛び込んでくる。
「出迎えなしとは忙しそうやの」
 ガハハと笑うその声に、千帆はゲンナリと肩を落とした。
「申し訳ございません。今ちょうど立て込んでおりまして」
 慌てて顔を出した沙織が膝を折ると、西院社長は「構わん構わん」と高笑いしながら戸口を跨いだ。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

どうもです^^

って、ガハハじゃない、西院っ←裏拳発動っ
ちょっと、張り手してきてもイイデスカ??
雪乃さんのことで、皆が心配しているのに。

予約無しのお客様、雪乃さんと訳有りの方だったんですね。
しかも、驚きで凍り付いてしまうくらいの、過去を共有している人。
脳裏に、もしかしてもしかしてと浮かぶ方がいたりするのですが、うぁぁ……

心配で、私も仕事が手につかないっ!ねぇ、千帆ちゃんっ

続きを待ってます^^

>kazuさん

おはようございます。
朝からコメントありがとうございます!

西院再び現る。笑
しばいてやってください。ええ、おもいっきりw
そして謎の男田原誠二。
脳裏に浮かんでくださればしめたものです。
雪乃には拭い去れない過去があります。

続き、がんばります。
でも、ストックが少しずつ減ってます。ピンチです(^_^;)

き~た~で~

西院社長、登場ですね。うん。この数行だけでムッと出来るから不思議(笑)

実はですね。私も同じく、予約なしのお客さんが気になっていたのです!><
でもでも…違うかもしれないし…うーん気になるけれど…と濁したままだったから。みんなのコメント読んで「私も~!」と叫びたかったです(笑)

で。やっぱりといいますか、ワケありなお客さんでしたね。
これはやっぱり、雪乃の過去と深い関係があるようで…
うーん。嫌な予感がするぞ~><
しかもそこに西院社長が来てるし。やばそうかも@@;

あ~ハラハラします!

気になります!

しっかりものの雪乃さんが取り乱してしまうとは、
ただ者じゃありませんね、田原誠二。
二人の過去に何があったのか…千帆と同じく、気になります。

そして西院!(笑)
いいですね、このコテコテキャラ!
登場するだけで「やらかすぞ」と思わせてくれる、
ある意味、一番楽しみな人です。

流星群と共にやって来た二人のお客様。
どんな風に物語に絡んでくるのか、ドキドキしながら待っています!
(そういえば、そろそろ現実の方でも流星群が来ますね!)

>chachaさん

こんばんは。
来ました西院。そして田原誠二。
予約なしの客、気にしてくださってありがとうございます。
てか、chachaさんのことだし気づいてるだろうなとは思っていました。
そして、その嫌な予感も的中でしょう。きっと。

田原、西院、雪乃
役者はそろいました。
あとは浅見が居合わせれば完璧ですね。
ハラハラ、しばらく引っ張りたいと思います(え?笑

>沖川さん

こんばんは。
過去にわけありの二人、といったところです。
ただ者じゃないです田原誠二。
どうぞ気にしてやってくださいませー♪

西院人気ですね。
ちょっと悔しい大阪人(笑
はい、やらかしますよきゃつは。まあ見ててください。
>流星群と共にやって来た二人のお客様
いいですね。
まさにそうですよね。それも招かれざる客二人。僕も楽しみです♪

そういえば、現実の流星群もそろそろですね。今年はどうなんでしょう。時間的に朝方だったり、雲がかかっていたりすると見えないそうなので、要チェックですよ!!

こんにちは~

バッティングは、そちらでしたか!(◎_◎;)
浅見さんの登場を楽しみにしていたのに…
うむー、凍りつく様な感情を呼び起こす誠二さん…
西院の暑苦しさが氷塊を溶かす様な気分すらしますf^_^;)
仕事が手につきませんよ、私も~

>らんららさん

はい。
そっちでした。
おそらく皆さん浅見の登場を予感されていたと思うのですが、そこはしれっと外します!みたいな(笑

誠二とのこと、次回更新で少しだけ明らかに。

そして西院。
嵐を呼ぶ男です。こいつは。笑
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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