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ボルカノ・ベイ Act.2 _6

Category : volcano bay

(三)

 桔梗色に染まり始めた空と、牧草がなびく緩やかな丘が混ざり合う。その中を、まるで春風とじゃれ合うように仔馬が跳ねた。
 カシャ、カシャ、と遠くでシャッターを切る音がする。
 その人影は、いつぞやの場長の言いつけどおり、半ば朽ちた牧場の柵の外から仔馬にレンズを向け続けていた。
「案外律儀なんだよな」
 遊馬は作業着に手を突っ込んだまま、その光景を遠目に眺めていた。
 もっとも、律儀だからこそ今でもこうしてピー子を連れてきてやってるわけで、もし言いつけを守れないようなら、とっくの昔に門前払いしているところだ。
「ピー子、帰るぞ」
 遊馬が短く口笛を鳴らすと、仔馬がひょいと顔を上げた。
 もう?とでも言いたげなその顔に、「だーめ。馬房に戻らないと」と笑顔で返し、駄々をこねる子供を諭すように、ピー子の鼻面を優しく撫でる。
「話してるみたい」
 柵の外で杏が笑った。
 遊馬は「話してるんだよ」と真顔で答え、ところでさ、と続けた。
「いつになったらその写真見せてくれるんだ?」
「だから、アスマが煙草やめたらって言ったっしょ」
「またそれか」
 遊馬はハハッと短く笑い、ピー子の手綱を引いて杏に軽く手を挙げた。
「じゃな。美月ちゃんによろしく」
「はいはい」
「気をつけて帰れよ」
「へいへい」
 子供じゃあるまいし、と苦笑いで自転車に跨り、杏はヒラヒラと手を振った。
 二人はいつもこんな感じだった。ピー子の放牧時間を遊馬に教えてもらっている杏は、気が向くと牧場に足を運んだ。遊馬が姿を見せるのは、ピー子を馬房に連れて帰る時だけで、それまでの間はひたすらのんびりと写真を撮る。それはそれで楽しいのだけれど……
「何その進展のなさ」
 と言うのが美月の厳しいジャッジだ。
 まあね、などと思わなくもないのだが、別に遊馬とどうにかなりたいと思ってるわけじゃないんだから、他人にとやかく言われる筋合いはない。……はず。
「美月のバカ」
 杏が半ば八つ当たり気味に自転車を押しかけたその時、
「あ、思い出した」
 と遊馬が振り向いた。オレンジと青が混ざり合う逆光の中で、遊馬に引かれるピー子のたてがみがフワリと揺れた。
「今度お前が来たら話そうと思ってたんだけど」
「何?」
「お前さ、流星群って知ってる?」
「流星群?」
「何だ」
 知らないのか、と遊馬は呟いた。
「テレビでやってたろ。何でも今夜、この辺りでカシオペヤ流星群が見えるんだと」
「うそ!」
 途端に杏の目が輝いた。
「ちょっと。その話詳しく聞かせて欲しいんだけど」
 杏は跨っていた自転車を放り投げ、番記者よろしく詰め寄った。
 何でも遊馬の話では、今夜未明にカシオペヤ座にほど近い空で流星が見えるらしく、全国の天体マニアが集まってきているらしい。
「……流星かあ」
 杏はまだ星の見えない北の空を見上げ、考え込むように腕を組んだ。ぶるる、とピー子が鼻を鳴らす。杏は柵越しにその額を撫でてやりながら、あのさ、と遊馬に切り出した。
「あたしさ、流星群とは関係ないんだけど、どうしても撮ってみたい写真があるのよね」
「どんな?」
「アスマも見たことあると思うんだけど、こう、北極星を中心にして、その周りの星がぐるっと円を描いたような写真」
 説明しながら、指でクルリと円を描く。
「ああ」 遊馬は頷いた。
「小学生の時だっけ、理科で習ったような気がするな」
「それそれ!」
 杏はすっかり上機嫌だ。
「あれはね、カメラのズームを無限大にして、それからシボリを二段階くらい絞り込んで撮るの。それも一晩中」
「へえ」
「結構難しいのよ。まず空が夜の間ずっと晴れてないとダメだし、風でカメラがぶれてもダメ。それに……」
「分かった分かった」
 遊馬はひとまず杏を押しとどめた。この調子じゃ当分終わりそうにない。
「何よ。まだ話終わってないんだけど」
「だから」
 遊馬は苦笑いを浮かべ、ピー子の首筋をひとしきり撫でた。
「お前の話に付き合ってたら、こいつを連れて帰れなくなるだろ」
「あ」
 そっか、と杏が呟く。それから「でも」と顔をしかめた。
「何でそんな話をあたしに?」
「実は牧場の先輩が有珠山の外れにコテージを持っててさ。今夜泊まり込みで観に行くことになったんだ」
「えー!いいなあ!」
「だろ?」
 遊馬の顔がニヤリと緩む。
「何それ自慢?」
「まあな。何なら俺が撮ってきてやろうか」
「全然嬉しくないし」
 杏は心底羨ましそうに頬を丸め、ジト目で遊馬を睨み上げた。
 もちろん、それに怯むような遊馬じゃない。
「ま、今度会った時にでも話聞かせてやるよ」
 じゃな、と言って背を向ける。
「いいなあ……」
 杏は俯き加減に口をつむったあと、逆光が差す遊馬の背中に向かって顔を上げた。
「私も行く」
「……は?」
 振り返った遊馬に、杏は畳みかけるようにまくし立てた。
「ママは今日夜勤だし、他に家に誰もいないし、それにアスマの他にその先輩がいるなら二人きりじゃないし、もしかしたら美月も来れるかもしれないし」
「いやでも」
「どうしても撮りたいの!」
 拳を握って詰め寄る杏に、遊馬はポリ、と鼻を掻いた。
「……オヤジさんに何て言うんだよ。普通許さないだろ?」
「パパはいないよ」
 離婚したもん、とは言わなかった。別に隠した訳じゃない。敢えて話す必要もないと思っただけのことだった。

>>続く

テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

まあまあ!

進展がないわね!と思っていたところに~
うんうん、食らいつく(笑)杏ちゃん、偉いぞ~!
しかし~、二人きりではないとはいえ、お泊りです\(//∇//)\
いやん、楽しそう~
きゅ~

何やら不穏な状況の雪乃さんは心配だけど。
こちらはこちらで、楽しみです~(=^x^=)



>らんららさん

こんばんは。
ですよねー
もういい加減進展しないと。書いてるこっちも痺れ切れてきました。笑
まあ、杏は遊馬がどうのというよりも、ただ写真を撮りたいだけっぽい気もしますけど、正直僕が遊馬なら「うるおおおおおおおっしゃあああ」てなる。ええ、絶対なる。でも遊馬はどうかな。むっつりかな?ww

雪乃は雪乃でやばいことになりそうな感じですし、こっちはこっちでやばいこと?になるんですかねー
盆明け(週明け)まで更新お休みです♪

むふふ~♪

ききき、期待していいのでしょうか!
進展するのでしょうかっ!
え、アスマくんはむっつり?……それもいい(笑

興奮しすぎました(笑

ラヴに食いつく、kazuです。おはようございます^^
杏ちゃんの「……はず」の部分に、恋の予感を感じつつ~
気になる以上恋未満って感じですかねっ!←妄想(笑

週明けの更新、楽しみにしています^^
ではでは^^

>kazuさん

こんばんは。
実家から返信です。
期待……どうなんでしょうねー、遊馬次第、なのかな?

杏はですね、たぶん本人も自分の気持ちがよくわかってないんじゃないかと思います。元々人の顔色見て考える、自分の意見を極力言わないタイプなうえに、美月に焚きつけられるもんだから、余計分からない。

ところで、あっちもこっちも微妙に色恋系でやばい?感じになりつつありますが、実はもっとやばいことがあるんですよね。
言いませんけどー!(笑

あ、トーナメント頑張って!といっても相手はchachaさんだから、二人とも頑張って!ああ、複雑(^_^;) ともあれ、結果はどうあれ、最後まで楽しんでいきましょう!!ひゃっほー♪

うわー

かかか、楓さん!雪乃の誠二さん、西院はどうなるんですか!?@@;
気になるところで杏ちゃんに戻るとはっ!うきゃーーー!(笑)

でもね。こちらもか~な~り~気にはなってたんですけどね。うふふん♪
遊馬。まだ杏ちゃんに対しては「恋」的な要素ないんでしょうか…
私だったら、あーこれは見込み薄いかなーなんて諦めちゃうかも(笑)
杏ちゃん自身はどうなんでしょうね?気にはなってる感じだけれど…
この流星群が、2人の距離を縮めてくれたらなぁなんて思っちゃいます♪お似合いだと思うんだけどな~

パパが居ないこと、遊馬はどう思うんだろう。
そして、お泊り決行か!?う~ドキドキな展開だわ~♪

>chachaさん

こんばんは。
雪乃と誠二と西院は、ちょっとそのまま保留です(え
ま、取り敢えず沙織が、西院と誠二が鉢合わせしないようお風呂の監視をしてくれていることでしょう。

遊馬の気持ちはどうなんでしょうね。
確かに、一切それらしい素振りの一つも見せてませんけど、男なんて案外そんなもんですからね。チャラ男ならいざしらずww
それに遊馬むっつり疑惑(勝手に;笑)もあることですし、余計不明です。
ふむふむ。chachaさんなら諦めるレベルですか。なるほど。逃がした魚は大きいぞ遊馬!!!

てかですね、実は「今日」の日にちのことを考えると、そんな悠長なことはやってられなかったりするのですが、さてさて、流星群は幸運のキューピッドとなるのか、はたまた嵐を呼ぶ悪魔なのか。お泊りは決行されるのかあああ!

トーナメント頑張って!相手がkazuさんなので複雑ですが、あああああ両方頑張って!……と、kazuさんと同じことを言いつつ、僕は応援にまわるのであります。笑
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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