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ボルカノ・ベイ Act.2 _7

Category : volcano bay

 西に傾いた夕陽が、洞爺湖に浮かぶ中島を朱色に染めていく。夏至が近いせいだろうか、近頃随分日が長くなってきたように思う。
 杏はバスに揺られながら、リュックの中を覗き込んだ。
 カメラ、三脚、レンズ、フィルム、レリーズ、星座版と方位磁石。それから、着替えにタオルにメイク道具に歯磨きセット。
「あと何だっけ」
 メモ帳にチェックを入れながら、何度も忘れ物がないか確かめる。ちなみに、レリーズとは遠隔でシャッターを切る時に使うケーブルのことで、手ぶれをなくすために持ってきた。
「よし、おっけい」
 と呟き、メモ帳をリュックにしまい込む。
 ずっと下を向いていたからか、少しだけ頭がくらくらする。普通なら車酔いしそうなものだが、そう言う類は昔から平気だった。
「美月も来れたら良かったのに」 と窓を見る。
 一応誘ってみたのだが、案の定「ごめん無理」と一蹴された。それどころか、
「それより杏、報告よろしく」
 と意味深な言葉に、杏は「バカ」と返して電話を切った。
 美月のにやけ顔が目に浮かぶ。
 二人きりじゃないんだ。大丈夫。と自分に言い聞かせ、いつも使っている一眼レフのファインダをクリーナーで磨く。そうでもしていなければ、今にも心臓が飛び出してしまいそうだった。

 ほんの一時間前――
 遊馬から話を聞いた後、杏は急いで家に帰ってリュックを探した。
「リュック、リュック」と呟いてみても、いつ以来使っていないかも覚えていないし、そもそも捨てていないとも限らない物を探し出すのは一苦労だった。
 見つけた後もバタバタだった。
 久しぶりの天体撮影。ましてや、小学生の頃に父と一緒に撮って以来、一人では一度も挑戦したことがないのだ。やり直しのきかない撮影だけに、なるべく万全を期しておきたい。
 幸い機材は揃っている。撮影の方法も覚えている。……と思う。それでも本棚の奥からカメラ雑誌を引っ張り出し、天体撮影のことが書かれた号をベッドに放り投げた。
「よし」
 と腰に手を当て、今度はクローゼットに手を伸ばす。
 もう五月の終わりとは言え、夜はぐんと冷え込んでくる。薄着は禁物だ。ジーンズと長袖、あと上着。それを手に掴んだまま、んーとしばし悩んだ末、「ま、いっか」とカメラの隣に並べる。
「はい次!」
 パンと手を鳴らし、杏は手早く必要な物をメモ帳に書き出した……

『次は、昭和新山です』
 アナウンスが終点を告げると、杏を乗せたバスはゆっくりとカーブを曲がった。湖畔の白樺を思わせる、緑と白の車体に夕日が差す。
 洞爺湖温泉バスターミナルから道南バスに揺られること十五分。いつの間にか、赤茶けた山肌がすぐ目の前に迫っていた。昭和新山だ。頂や岩場のそこかしこから、うっすらと白煙がたち上っている。それを正面に眺めながら、バスは静かにエンジンを止めた。
 乗り合わせていた数名の客たちがぞろぞろと席を立つ。どの客も皆同じようなリュックを背負っている。
 杏は荷物を背負い直し、よいしょと呟きながら最後に降車タラップを踏んだ。
 真っ先に空を見上る。それから大きく息を吸んだ。
「いい空!」
 雲一つないオレンジ色の空に、自然と胸が高鳴ってくる。
 雲があっては星は見えない。流星群だって当然ダメ。雲は天体撮影の天敵なのだ。
 有珠の中腹にある通称「火山村」は、正面に昭和新山、背後に有珠山の山頂を見上げることができる有数の観光スポットだ。杏も一度、転校して間もない頃に課外学習か何かで来た覚えがある。もっとも、それっきり訪れたことはなかったのだが、地元の観光地など案外そんな物だろう。
 杏はグルリと見渡した。
 バスロータリーを中心に、レストランやショップが軒を連ねている。もう夕暮れだというのに、やけに人が多いのは、きっと流星群のせいなのだろう。その中に遊馬の姿はない。
 時計は5時を少し回っていた。約束の時間まであと10分ほどある。
 杏は散策を決め込むことにした。
 昭和新山の登山口、アクセサリーショップにジャンクフードの露店。その向こうには火山記念館もある。
 正面のログハウス風の建物の一画にはロープウェイ乗り場があって、有珠山頂の展望台に繋がっている。今日もこれの最終に乗って頂上に向かうことになっていた。
「懐かしいなあ」
 土産用のTシャツやグッズを手に取ってみながら、杏はぶらぶらと時間を潰した。
 それから程なく。
「ちょっとお腹すいたかも」
 大きなソフトクリームの看板の前で立ち止まっていると、表のロータリーに止まったバスの影から遊馬の姿が見えた。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

ニヤニヤ(笑

美月ちゃんと一緒に報告を待ちながら、ニヤニヤ笑いたいkazuです。
こんばんは^^

飛雄馬の姉ばりに、物陰から二人を見てみたいっ。←怪しい(笑
あぁ、でもそうですよね。
焚きつけられちゃうと、混乱してしまうというか。
二人の進展をじりじりと待つのです~♪←願望(笑

前記事の写真のような素敵な宇宙を見に、二人は向かうわけですね^^
杏ちゃん、思い通りの写真を撮れればいいのですが♪

あぁ恋愛でどきどき、不安でどきどき。
続きを楽しみに待ってます~♪

>kazuさん

こんにちは。
美月は残念ながら塾でした。でも、ちょっと無理したら行けたんじゃないの?なんて勘ぐってみたり。策士美月と一緒に杏の報告を待っていて下さい♪

女の子がどうなのかは知りませんが、男は得てして焚きつけると逆効果になったりしますよね。変に意識しすぎて自滅、みたいな。そこを組んでくれる女の子って素敵です。気付いてて気付かないふりをして、そっと手を差し伸べる的な!!!!て何の妄想かwww
まあ、杏には無理です(え

はい。これから有珠に登ります。
杏は無事に写真を撮れるのか、無事に下山できるのか。
それにしてもストックが厳しいです。今日あたりうららー!と執筆せねば(汗

ニヤニヤ(笑(笑

そっと手を…(笑
余裕ないとできないですね~♪
微妙な関係の駆け引きが、後で思えば最高にドキドキする瞬間というか、
恋愛の醍醐味となのだろうけれど。
胃が痛くなるし食欲なくなる。女の子だってそんなものです。
たぶん。

前日の夜の、杏ちゃんの気持ち、わかるなぁ~
というか、楓さん分かってるな~(笑

無事に下山っ!?って?
楓さん、怖いことしちゃダメですよ~!!
陰で見守っている私とkazuさんが駆けつけちゃいますから(笑

ま、とりあえず、初めてのデート♪(←決めつけている
たっぷり美しい星と一緒に堪能したいと思います~!

>らんららさん

らんららさん、でいいですよね?笑
こんにちは。
やっぱ女の子でもそうなんですね。
男よりはよほどその辺クールというか、冷静なのかなと思うんですよ。男はほんとどうしようもなく子供ですからね。汗

杏の気持ち……そですか?
良かった♪
でも、女の子の気持ちは難しいす。僕が心理描写苦手なのもその辺にあるんですけど、本当にこんなの事考えるんだろうか、言うんだろうかって、書く度自信ないです。

無事に下山できるんですかね。この二人。
だって……ねえ。

そわそわ~

杏ちゃんの前日のそわそわ具合、よーくわかります♪
そして当日のバスの中で。うんうん、ドキドキしちゃう~^^
思わずニヤけちゃいました☆
杏ちゃんの行動ひとつひとつが丁寧に描写されてて、私もらんららさん同様、楓さんは女性のことをよーくわかってらっしゃる!と拍手を送りたいです(笑)
お腹空いたかも…で、ソフトクリームの看板の前で立ち止まったり。うん、しますします(笑)
でもでも…楽しい時間だけじゃないんですよね、この先に待っているのは…
うぅ~続きが楽しみだけれど怖いです><

無事に下山…
あるけど!確かにこの後あるけど!
出来ますように!!><。←切実

>chachaさん

こんばんは。
杏は遊馬とどうのと言うよりは、ただひたすら「カメラ」のことで頭いっぱいな感じですよね。でも、時々ふっと思い出す。いや、思い出したくない、考えたくないからカメラに集中してるのかな?
まあそんな感じが伝わったならよしよし、なのです♪

お腹がすいたらアイスです。
はい。
あとは回転焼きとか、たい焼きとか、たこ焼きとか、焼きそばとか、みたらし団子とかうはああああああああ!!!
やべ。
興奮してしまいましたw

無事に下山……あふう←!
行ってこい!
どどーんと行ってこい!www
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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