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ボルカノ・ベイ Act.2 _9

Category : volcano bay

(四)

 真っ直ぐに伸びた四本のケーブルが、少しずつ眼下に遠ざかるロープウェイ乗り場に吸い込まれていく。へばり付くようにそれを見下ろしていた杏は、昭和新山の背中に見えたオレンジ色の湖面に目を輝かせた。
「あ、洞爺湖!アスマほら!」
「ん」
「夕陽綺麗~。中島って本当に湖の真ん中に浮かんでるのね」
「ああ」
「温泉街も見えるんだ。ママが働いてる旅館もあの辺にあるのよ」
「ん」
「それにしても、有珠って結構高いのね。人とかもう見えなくなっちゃったし」
「ああ」
「……ちょっと」
 杏は座席に座ったまま身動き一つしない遊馬の前で仁王立ちした。
「人の話聞いてないでしょ?」
「ん」
「また。さっきから「ん」と「ああ」しか言ってないじゃん」
「ああ」
 だから何?とでも言いたげに遊馬が杏を見上げる。
「……もしかして」
 壊れたオウムのように同じ言葉を繰り返す遊馬に、杏は何か気付いた様子で目を細めた。
「怒ってるの?自分から誘っといて」
「誘ってねーし。てか怒ってもねーよ」
「ふーん」
 杏の顔が猫のようににやける。
「じゃあ、恐いとか?」
「何が」
「高い所が」
「は、馬鹿言うなよ。個人的にあんまり好きじゃないってだけで」
「ほら」
 鼻を鳴らして反論する遊馬の顔を無理矢理窓の外に向けると、遊馬は目をつむって抵抗した。
「やっぱそうじゃん」
「お前なあ」
 遊馬の眉がピクリと跳ねる。
「さっきからあっちバタバタこっちバタバタ邪魔なんだよ。迷惑だろ」
「ごめんね」
 謝るふりをしてもう一度遊馬の顔を窓に向けると、今度は危うく噛みつかれそうになった。
「止めてよ変態」
「いいから動き回るな」
 子供か、と遊馬に吐き捨てられた杏は、頬を膨らませて眼下を見下ろした。それから小さく息を吐く。
 心臓が脈打っている。それも、いつもの倍くらいの早さで。
「ママ怒るかな」
 ……怒るよね、と額で窓を叩く。
 じっと頂上の駅を凝視している遊馬には、杏の呟きは聞こえない。
 正直な話、勢いで乗り込んだまでは良かった。でも、冷静に考えて、やはり遊馬と二人っきりでバンガローに泊まるというのはもの凄く拙いような気がしてきたのだ。
 雪乃は今日、夜勤のはずだった。それでも何かの拍子に家に帰ってくる可能性もあったから、一応テーブルにメモを残しておいた。たった一行。『流星群を見に有珠に行ってきます』とだけ。
 もちろん、遊馬と一緒だなどとは一言も触れていない。もしバレたらと考えただけで罪悪感に包まれる。遊馬のことは信じてる。……と思う。て言うか、そもそも何とも思われてないだろうし。
「それもどうかと思うけど」
 杏は益々額を窓に押しつけ、一瞬湧いた複雑な何かを押し殺した。
 なおも思考は交錯する。「けどやっぱマズイよね。よし、そうだ、さくっと山頂だけ見て引き返そう!」と拳を突き出す自分と、「でも、だけど」と首を振る自分。分かってる。こんなチャンスは滅多にない。……チャンス?チャンスって何の?
「……おのれ」
 杏はもう一度その複雑な何かを吐き出し、深々とため息をついた。
『間もなく山頂に到着します』
 天井から女性のアナウンスが流れると、ロープウェイはゆるりとスピードを落とし始めた。

 頂上に着いた二人は、重いリュックを足元に下ろし、うーんと大きく伸びをした。ロープウェイから解放されたせいか、遊馬の表情にも少し余裕が戻っている。高所恐怖症にとって、足元がスカスカという状況ほど恐いものはないのだ。
「うわ、懐かし!」
 杏はロープウェイ降り場のすぐ横に作られた木組みの展望デッキに歓声を上げた。
「これあった!小学校の課外授業か何かで登ったのよね」
 言うが早いか、遊馬を置いてさっさと階段に足を掛ける。
 もうすぐ薄暗くなると言うのに、デッキの上はまだたくさんの高校生や観光客で溢れていて、思い思いにカメラを向け合っていた。
 東京の子達だろうか、
「うっそマジで?!」
「何それウケる」
 などと爆笑しながらメイクを直している様子を見ると、あたしって子供だな、なんて思えてくる。
「……高いなあ」
 昭和新山がずっと下に見える。その向こうには洞爺湖も。手すりに身を預けて広大なパノラマを見下ろしていると、
「撮ってやろうか?」
 と、いつの間にかデッキに登ってきた遊馬が手を差し出した。
「貸せよ、カメラ」
「撮れるの?」
「普通の一眼レフだろ?それくらい俺にだって撮れるっしょ」
「ふーん」
 杏は手早く三脚にカメラを据え付けると、まだ数メートル先にいた遊馬に照準を絞った。
「おい杏」
「動かないで」
 夕陽が綺麗だからと遊馬を制し、ファインダーを覗き込んだその時、耳の裏を掻いている遊馬の頭上に、ひときわ光る星を偶然見つけた。
「一番星……」
 ふわりと風が頬を撫でた。
 顔を離して空を仰ぐと、さっきまで夕暮れのカーテンに隠れていた星達が、まるで透かし絵でも見るかのように少しずつその姿を現し始めていた。
 杏の大きな瞳に桔梗色の空が映り込む。
 空は静かに時を越え、遠い昔、杏が父真一に初めてカメラを貸してもらった時に見た黄金色の空と重なって溶けた。
「……杏?」
 どこ見てんだ?と遊馬が杏の視線を追う。
「余所見しない!」
 我に返った杏はスイッチを押して遊馬に駆け寄った。
「動いちゃダメよ」
「え?ああ」
「あたしも一緒に。今タイマーセットしたから」
 杏は遊馬の横で微笑んだ。
 まるで幼い子供のような、屈託のない笑顔だった。
 カシャ、と短いシャッター音が聞こえた時、互いの手の甲が一瞬だけ触れたような気がした。

>>続く

テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

むふふふ♪

杏ちゃんカワユス~!何だコレ、ロープーウェイでの一人葛藤(笑)
「おのれ」って!笑える~!やっぱイイなぁ~杏ちゃん♪
でもね。確かに冷静になって初めて気付くことだってあったり。気分が高揚している時って、そこまで頭が回らなくて。だから、やってしまった後で焦る気持ち、すっごくわかります!><
うんうん。雪乃さんが何らかの理由で帰ってくることも想定出来るし、そのつもりはなかったにしろ男子と二人きりで一泊するのは、罪悪感抱くよね;;
こっちまで冷や冷やしたり、ドキドキしたりしちゃいます!やっぱり楓さん、上手いです~!

>さっきまで夕暮れのカーテンに隠れていた星達が、まるで透かし絵でも見るかのように

この表現の仕方、すごくキレイで素敵です♪
うーん、やっぱり文章書くのもセンスがいるんだなぁ…@@;

続きも楽しみにしています^^
なにとぞ、ご無理だけはなさらぬよう!

そうだったのか(笑

おはようございます^^

そうか、アスマくんは高所恐怖症だったのですね(笑
てっきり、二人きりになるこの後の事を考えて挙動不審なのかと思ったら(笑
これは辛い。
ロープに引っ掛かっているだけのような鉄の箱の中、明るければまだしも暗くなりつつある空中。
これは怖い(笑
私は平気ですが、知人が高所恐怖症(脚立もダメ)なのでアスマくんのぎこちなさ加減と言うか「ん」と「ああ」しか返事をしないその態度に知人を思い出しました。

ロープウェイの中での葛藤の後の、アスマくんと一緒に写真に写る杏ちゃん。
屈託の無いその笑顔と行動が、可愛さ満点っ^^

お父さんの事や今の状況の事、考える事はあるけれど。
星空を楽しんで欲しいな、と思います。

桔梗色の空。
まだ空の端はほんのりと明るく、ゆっくりと星が姿を現す夕暮れと夜の合間の空。
なんて素敵な空を想像をしつつ、続きを待っております~^^

>chachaさん

こんにちは。
掌編も書かずにこっち更新かよ!と自分に突っ込みつつ(笑
あの場合、僕には「おのれ」意外出てきませんでした。
夜空の写真を撮りたい。何か自分のこれからを試行錯誤してみたい。杏の気持ちは純粋です。なのに、お腹の端の方で「ホントにそれだけ?」て声がする。……ような気がする。そうなると意識したくなくてもしてしまう。必要以上に。沸々と沸き上がる複雑な何か。あの言葉は焚きつけた美月へ向けてか、頑として押し戻さなかった遊馬に向けてか、ドタキャンしやがった遊馬の先輩に向けてのものか、あるいは自分に対する苛立ちか。
まさに「おのれ」www

描写ありがとです。
野いちごのオリジナルには無かったのですが、モンモンとする杏を吹っ切らせるための描写として、推敲で書き加えたんです。良かった♪

>kazuさん

どもです。
ああ、それもあるかも知れませんね。
さしずめダブルパンチでしたか。悪いな遊馬。ゆるせ!w
何を隠そう僕が高所恐怖症でして、例えば登っていくロープウェイなら、絶対に到着駅しか見ません。下なんかぜっっっっっっっっったい見ない。しかも最悪なことに、足元をわざとガラス張りにしてみたりグレーチングにしてみたりしているどあほな場所に行った日には、とにかく何かにしがみつきます。観覧車とかも苦手です。ポートタワー最悪です。ジェットコースターの最初のちきちきとかもうマジで勘弁して欲しい。

で、何の話でしたっけ?をい(笑

杏と遊馬のツーショット撮影の前、ずっとモンモンとしていた杏ですが、一番星を見て自分を取り戻します。それがあっての笑顔なんです。可愛く映っててくれたらなというのが親心ですね♪もっとも、そこで踏ん切り付けちゃったばっかりに後々大変なことになるのかもしれませんけど。おほほ←

続き、さすがにストックがあと更新2回分しかなくなっちゃいましたし、掌編小説書いてからって感じですかね。ぎゃひー!

きゅん~

楽しませていただきましたっ!!
コメントのお返事よりなにより、昨日、更新されていたの知っていたのに来れなくて~(><。)
ふふふふふふ。
杏ちゃん、かわいい~。かわいい~!!
ロープウェーでの葛藤。すごく分かるし、杏ちゃんがもっと好きになりました♪
二人のやり取りも、ああ、高校生ってこういう子供っぽくはしゃぐところ、あるよね~!!って。
デートですよ、初めてのデートで。しかもお泊りですよ~!!って、迷いつつ、もうれしい気持ちが出ていて♪
いいなぁもっと、もっと!!!
こういうシーンをっ!

そして、風景を美しく描き出す魔法のファインダーを持つ楓さんらしい。
素敵な空の描写。
ロマンチストでしたね、たしか~♪うふふ。
うふふ。
(思わず楓さんのデートシーンを想像してしまった…=^∇^=)

杏ちゃんかわいいw

お久しぶりです。
このデートシーン、とってもかわいらしいですねww
恋心に気づいて戸惑っているあたりが何とも…
飛馬くんの弱点も、魅力的に感じます。

読んでいて気持ちがドキドキします。
さて、二人でお泊りはどうなることやら。
続きに期待しますね!

>らんららさん

こんばんは。
お返事遅くなりました。
お互い色々一杯いっぱいなかんじがほほえましく描ければ、今回はそれでOkかなと言う思いです。もちろん、その中には杏の自分の行動に対する焦りや、それを同自己解決していくかという心の移り変わりやらを、少しずつ織り交ぜてみてはいますが。
しかし、初めてのデート?でお泊まりはないですよね。まあ、そこは小説と言うことで、しっかり頼むよ遊馬くん!笑

空の描写は好きですね。
ついつい書きたくなってしまいます。
でも、連載形式で書いている時に乱用すると、実は少し前に同じような描写をしていた!なんてことに気付かずにいる時があるから注意です。
ロマンチストですよ(言い切るwww

>AKARIさん

こんばんは。
お久しぶりです!!
そして、こめんとありがとうございます♪
なのに……
お返事遅くなってしまって申し訳ございません。
デートシーン、可愛らしく書けたでしょうか?あまりこういうシーンは得意じゃないので、実はすっごく違和感があるんじゃないかとドキドキします。褒めてもらえて良かった!
お泊まりでは、もっとうああああああな感じになると思います。正直、ついこの小説がサスペンスであることを忘れてしまいそうで恐いです。あはは(をい

コメントいつでもお待ちしています♪
ありがとうございました!
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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