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ボルカノ・ベイ Act.2 _10

Category : volcano bay

 外輪山の遊歩道をしばらく歩くと、山頂に向かって分かれる道があった。
『この先私有地』
 と書かれた看板の横を抜け、薄暗くなり始めた砂利道を登る。
 人気はほとんどなく、月明かりと街灯に照らされた広い道の頭上には、緩やかな有珠の頂と満天の星空が広がっていた。
 けして寂れた場所ではない。
 むしろ神秘的と言ってもいいその光景に、杏は一瞬で心奪われた。
 来て良かった、と素直に思う。
 遊馬がどうとか関係ない。あの時、一番星を見つけた時、じゃあ自分はどうしたいのかと考えた。答えはすぐに見つかった。すると、まるで氷が溶けたかのように杏の中で迷いが消えた。下山しようかと悩んでいたのが嘘のようだ。
「……素敵」
 思わずため息が溢れる。
 その横で、遊馬が牧場の先輩にもらった地図を手に、「あそこだ」と顔を上げた。
 虫の音が聞こえる。
 標高のせいか、あるいは火山特有の土壌のせいか、あたりには木らしい木は一本も生えていない。ゴロゴロとした石や岩や、そこににへばり付くように群生する高山植物があるばかりだ。雑風景と言ってしまえばそうなのだが、大地と空を遮るものが何もない、手を伸ばせば星空に届いてしまいそうなその感覚に、杏は心洗われる思いがした。
 遊馬が先に立って歩く道の先に、目指すバンガローは建っていた。よくあるキャンプ施設と同じで、似たような造りの丸太小屋が何戸も並んでいる。どの窓からも明りが漏れているところを見ると、どうやら遊馬とまったくの二人きりというわけではないらしい。
 ホッと胸をなで下ろし、鍵を回した遊馬の後について玄関を跨ぐ。パチリと乾いた音に一瞬遅れて、天井のランプに火が灯った。
「うわあ」
 思わず目が丸くなる。
 バンガローの中は、思いの外綺麗だった。そこかしこに蜘蛛の巣や虫の死骸が転がっている部屋を想像していた杏にとって、これは嬉しい誤算だった。
 入ってすぐに簡易の台所があり、シンクの下には小さい冷蔵庫もある。廊下とも呼べないほどの短い通路の先に、狭いダイニングと二段ベッド。さすがにテレビはなかったけれど、空気清浄機があるのは有り難かった。そして、
「これなら十分置けるだろ」
 ダイニングのカーテンを開けた遊馬が、杏のカメラ道具を見て言った。すぐにそれと気付いた杏が、目を輝かせて靴下のままウッドデッキに飛び出す。
「嬉しい!これならレベル取るのも楽だわ」
「レベル?」
「カメラを水平に据える事よ。普通の撮影なら気にしないんだけど、今日はしっかり撮りたいから」
「なるほど」
 遊馬は荷物をベッドに下ろすと、中から雑誌を取り出した。
「何それ?」
 杏がウッドデッキから顔を出す。
「流星群の特集が載ってたんだ。11時くらいがピークらしい」
「ふーん」
 杏は柱時計を見上げた。
「まだ4時間もあるのね」
「だな」
 遊馬は雑誌をテーブルに置き、再びリュックを漁りだした。
「今度は何?」
「飯。腹減ったろ」
「あたしも買ってきたよ。トン平ちゃん」
 杏はバタバタとダイニングに戻ると、部屋の隅に放り投げていた自分のリュックからカップ麺を取り出した。
「知ってる?これ結構美味しいのよ」
「はは。ま、それもいいけどカレーにしようぜ。俺が作ってやるよ」
「ホントに?!」
「任せろ」
「てか、アスマ料理できるの?」
「一人暮らしだからな」
「……そっか」
 杏はカップ麺をリュックに押込み、小声で「しまった」と呟いた。
 手際よく野菜を洗い始めた遊馬の背中を見つめながら、また美月に怒られるな、と肩をすくめる。
『あのさ、そんな時こそ女子力を見せるチャンスでしょ?』
 大失敗だわ……と、これ見よがしにため息をつく親友の姿が目に浮かぶ。
「はいはいごめんなさい」
 杏は口を尖らせ、撮影用の機材をウッドデッキに運び出した。
 どう良く見繕っても、自分が「出来る子」じゃないことくらい分かってる。ママのようにはなれない。美月のように賢くもない。悔しいけれど、そんなことはもうとっくに諦めている。自分は自分。それでいい。背伸びしてカレーを作ろうとしたところで、失敗して遊馬に笑われるのがオチだ。
「あたしは忙しいの」
 などと無意味な言い訳をぼやき、三脚の脚を伸ばしていく。
「……そう言えば」
 ふと杏は顔を上げた。
 遊馬はさっき、「一人暮らしだから」と言った。
 以前、遊馬は「訳あって」メイジ牧場で働いていると言っていたことを思い出す。実家は静内の小さな牧場だとも。それに、こうも言っていた。
『手塩にかけて育てたって、二束三文にもならない馬はたくさんいる。馬産が儲かるなら、潰れる牧場なんかあるもんか』と。
 つまり、そうなんだ。と手を止める。
 遊馬の言葉の断片から、彼の家族に何があったかくらい容易に想像がつく。
「……さてと」
 杏はつまらない詮索を振り払うように、うんと大きく伸びをした。
 地平線に沈んだ太陽が、空にゆっくりと星達を返していく。
 これからが本番。
 朱色から紫、そして濃紺へと移りゆく空に、一片の雲もない。
 こんな絶好のロケーションで撮影できる機会など、もう二度とないかも知れない。
 三脚にカメラをセットし、方位磁石を空にかざす。北極星を見つけるには、カシオペヤか北斗七星を探せばよい。
「あれだ」
 杏は持ってきた雑誌を手に、お目当ての星に照準を合わせた。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

女子力、耳が痛いです

私もこういうときなら、カップ麺を持参する気がします(汗
そのくせヤカンを忘れそうな。結局、何も食べられず泣きを見そうな。

杏ちゃんは充分人として賢いし、それに優しいですね。
人間力はかなりあるって思います。

>AKARIさん

おはようございます!
僕も。
絶対UFO持って行きますwww
そう!そしてヤカンを忘れる。あるある(^_^;)

杏は、結構色んなコンプレックスを持っています。
周りの人達が色々「できる」からなのか、持って生まれた性格なのか、あるいは育った環境のせいか。
自分の意見がない、したいことが分からない、自主性がない、そう思っているし、実際確かにそう言う部分はある。それを変えたいと思えるようになったと言うことは、それだけで大きな変化だし、そうさせたのは遊馬であり、美月だと思うんですよね。

さあ、そんな中そろそろ……な感じです。
本当の人間力が試されるのはこれから、ですかね。
コメントありがとうございました!

とん平ちゃん~(笑

まあ、ね。まあ、突然決まったことだし、デートのつもりじゃないだろうし。
カップめんでも仕方ないよね、杏ちゃん。うん。しかし~欲しかったなぁ、女子力!!!(笑
ま、いいわ。最初はそんな感じでいいのよ。なさそうで、実はあるぞ女子力っていう発見が、男子の目を引くんだから♪

逆に遊馬くん、いい。いいです。さわやかイケメンで、笑顔が素敵で、適度に引き締まった体格、それで「カレーつくるよ」って!!!
きゅ~。言ってほしい~。(←だれにだ!?)

ロマンチックな夜は続くのですね、うふふ。
じっくりと、続きを待っています♪

ところで、体調には気を付けてください。微妙な秋風も吹きますし。台風ですし(?)

十分可愛い♪

トン平ちゃんって!(笑)
杏ちゃんナイス♪カワユス~^^
いいんだよ~杏ちゃんにはしっかりと自分の趣味を持ってるんだもの。
カメラ、すごいことだよ~!
当の本人はあんまり気付かないんですよね、こういうのって。もっと上には上がいるし、逆に自分は好きで撮ってるだけで、他には何の取り柄もないし…なんて。
そういう才能、持ってない人からしたら本当に羨ましいのだけれど!

さてさて。
杏ちゃんのもやもやも吹っ切れたみたいだし^^
お腹を満たすためのご飯は遊馬が作ってくれてるし(笑)
思う存分、写真を撮って欲しいな♪

遊馬の背景、また彼自身が語ってくれる時があるのかな?
私もちょこっと気になったり…
うん。素敵な夜空、楓さんの文章で本当、目の前に広がってます^^
続きも楽しみにしてますね♪

あと、らんららさんに便乗!
台風も近づいてますし、しかも楓さん近辺直撃しそうだし(私の住む四国もそうだけど。笑)、体調ぶり返さないよう気を付けてくださいね!

料理~

こんにちは、楓さん。


料理のできる男!格好いい♪
いいですねー、アスマくん。さり気なくちゃんと夕飯の準備もしてきたりして^^
私もきっとカップラーメンだなー、重いし←女子力見せる気もない(笑
反対に男子力(?)見せられちゃった感じですね。
そーいうところに、女の子はどきゅんとくるわけなのです(笑

自分は自分。
私は好きな言葉です。
杏ちゃんがその言葉を、周りを見て感じるコンプレックスからではなく、前向きに使える様になって欲しいなぁ、と。
だって、杏ちゃんにはカメラがあるもの!

そしてそして、皆さんに便乗っ
台風近付いていますね。
どうぞお気をつけ下さい!

>らんららさん

こんばんは。
お返事遅くなりました。
すっっっっっっっっっっっごい忙しかったす(二度目:笑

そうそう。
デートじゃないんですから。
って、じゃあ遊馬の用意周到さはいったいなんぞwwと
女子力はまあ、そのうちどっかでそれなりに身につけていくんじゃないですかね。分からないけど←

遊馬は飄々としてますね。
内心どうか分からないけど。
僕ならもうどっきどきですけど!!
カレーなんてもう手が震えて包丁とととととととととととととっ!←みじん切り?みたいな(笑

さあ、これから星が降りますね。
うひゃひゃ(え

台風来てますね。体調は今のところ大丈夫です♪
らんららさんもお気を付けて!

>chachaさん

こんばんは。
お返事遅くなりました!

はい。トン平ちゃんです。
なんか美味しそうでしょ?
トン平焼き好きなんですよー、僕。
そうそう、杏はカメラに対しても軽くコンプレックスを持っているんですよね。自分なんて全然たいしたことない。プロに何てなれるわけないって。コンプレックスというか、勝手に自己解決して諦めているというか。そう言うのってホント、自分じゃ分からないんですよね。特に杏みたいなタイプは。

遊馬の過去は、近いうちに彼が自ら語ると思います。
もちろん、彼のことなのでそう多くは話さないでしょうが。

台風ですね。お気遣い感謝です。明日辺り四国直撃じゃなかったでしたっけ?違うか。和歌山でしたっけ?コース的に少しでも東側を通ってくれた方が雨も波も小さくてすむんですけどね。
逸れてくれーーーーーっ!!!

>kazuさん

こんばんは。
遊馬やりおる。
料理できる男ってのは特ですね。なにせもてる!
ちなみに僕はできません。最近ちょこちょこっとパスタとピラフを作るくらいです。くっっそまずいソバを作った時には我ながら愕然としました。ゆでるだけなのに失敗するとかwwwって

自分は自分。
杏はまだそう自分に言い聞かせて、周りの声を強制的にシャットアウトしているにすぎないですよね。本心から、自発的に、ポジティブに出てきた言葉じゃない。そこが杏の弱いところですが、誰もみな、杏みたいなタイプの方が圧倒的に多いだろうなとも思うんです。
難しいですね。

台風頑張ります!!!←はしょりすぎ(笑

かっこよすぎ~(^-^)

こんにちわ~♪

ちょっと時間できたので一気にここまで読んじゃった~!!

ってか遊馬かっこよすぎだし~(/- -)/
いいないいなぁ~
こんなドキドキの甘酸っぱい感じの恋してみたい←今さらね(笑)

杏ちゃん、なんかいい。
自分をとおしてるとこなんて尚更。
周りに流されまくりのウチからしたら憧れますな~。

まだまだ先が気になるね~
楽しみにしてます♪

>なぎちゃん

はろー
こんばんは。こんな時間に(笑
なんと!
読んでくれたのか!しかも追いついてる!!
ああ、なのになかなか更新できなくて申し訳ないっす。なんか猛烈に忙しいんだなこれが(汗

遊馬はなかなかイケメンです。
そして細マッチョです。
だって毎日牧場で日に焼けながら肉体労働してますからね。
歯が白い!!!←そうなの?www

杏は元々流されやすいタイプなんですよ。でも、それが嫌で、でもどうしていいかわからなくて、それでも一生懸命何かを見つけようとしている。誰だって本気で変わろうと思えば、例えすんなりできなかったって、一歩を踏み出すことはできると思うんですよね。って、それが難しいんですけどね。

続き……
仕事の合間に頑張りマウス♪
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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