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ボルカノ・ベイ Act.2 _12

Category : volcano bay

「ダービー馬を育てるってのがさ、子供の頃からの夢だった」
 ゆっくり吸い込み、星空に向かって煙を吐く。もちろん、カメラとは反対向きに。
 杏は黙って聞いていた。
「前にも言ったけど、ファイアは俺がこっちに来て初めて取り上げた馬なんだ」
 煙が風にフワリと舞う。
「実家は小さな牧場でね、何とか細々とサラブレッドを生産してたんだけど、とうとう三年前に潰れちまってさ」
 ……やっぱり。と杏は心の中で呟いた。
「親父とお袋が地元の牧場で働かせてもらえる事になった時、岩田さんが俺に声掛けてくれたんだ」
 岩田と言うのは、初めて杏がピー子と出会ったあの日、杏と美月を叱った無精髭の場長のことだった。二人は以前から顔見知りで、遊馬がサラブレッドに抱く情熱を人一倍買ってくれていたらしい。
「当時ファイアのお母さんはそんなに期待されてなくてね、何ならお前が取り上げてみろって言ってくれたんだ」
「へえ」
 意外ね、とは言わなかった。ああいうタイプの人に限って、案外根は優しかったりするのだ。
「俺は物心ついた頃から馬たちと一緒に暮らしてきたから、あいつらのことなら大体分かる。そう思いこんでた」
 でも、と遊馬は続けた。
「ファイアは凄い難産だった。途中から場長や他の徹夜組も総出で手伝ってくれたんだけど、それでもすぐには出てこなくてね」
 プシュ、と缶ビールのプルタブを引く。
「あ、ビール飲んでる」
「いーじゃん。俺もう二十歳だし」
 ニヤリと笑って煙草の灰を灰皿に落とす遊馬に、杏は頬を膨らませた。
「ファイアの曲がった脚を見た時には愕然としたよ。やっちまったってさ」
「え?それって遊馬のせいだったの?」
「分からない。場長やみんなはお前のせいじゃないって言ってくれたし、脚の外向は普通先天性だ。……けどさ」
 遊馬はそこで押し黙った。杏も何も言えなかった。いくら自分のせいでないにしても、初めて取り上げた子の脚が曲がっていたら、誰だって自分を責めるだろう。
「アイツは俺の子供みたいなもんなんだ」
「……うん」
 分かるよ、と杏は呟いた。いつもは偉そうにしている遊馬の横顔が、馬の話をする時だけは、凄く子供っぽく見えるのだ。
 何だか胸がどきどきする。それがどう言う意味なのか、さすがに杏にだって分かる。もっと近くで遊馬の顔が見たい。ふとそう思った時、視界の端を何かが一瞬横切った。かと思うと、隣のバンガローから短い歓声が沸き上がった。にわかに周りが活気づく。
「……今の」
「流れ星だ」
 二人は目を併せると、もう一度濃紺色の空を見上げた。
「11時じゃなかったっけ?」
「ピークがそれくらいってだけで、その前後にだって星は降るって事なんだろな」
「フライング流れ星」
「まあそんなところだ」
 杏の可笑しなネーミングに笑いながら、遊馬が「そういや」と続けた。
「何かお願いしたか?」
「全然」
「だよな」
 速すぎるだろ、と毒づく遊馬と流れ星に、杏は少しだけ救われた思いがした。一度流れたっきりいつもの静寂を取り戻した星空を見上げながら、
「今度見つけたら何をお願いする?」
 と杏が尋ねると、
「そりゃあ」 と遊馬は鼻の頭を掻いた。
「ダービー制覇だろ」
「だよね」
 杏が楽しそうに頷く。
「なんたって明日だからな、レース。杏は?」
「あたしも一緒。……でも」
「でも?」
「もしもう一つできるなら、パパ……お父さんに帰ってきて欲しいかな」
「……え?」
 杏の予期せぬ答えに、遊馬は一瞬言葉に詰まった。
「あたしんち、六年前に離婚したの。ママは必死に働いてあたしを育ててくれてるけど、凄く無理してるのが分かるんだよね」
 遊馬はビールを一口飲むと、そのまま杏の話に耳を傾けた。
「実はね、あたしにカメラのことを教えてくれたのもパパなんだ。だからさ、こうしてると何か色々思い出しちゃって」
 あはは、と無理に笑う杏に、遊馬は黙って煙草に火を付けた。
「ごめんね」
 杏は明るく謝ると、「これ片付けるね」と言ってカレー皿を手に腰を浮かした。
「いいよ、俺やるから」
「それくらいさせてよ」
 髪をかき上げて立ち上がろうとしたその時、スッと遊馬と目があった。
 逆光、と言うのだろうか、薄い三日月を背に、遊馬が付けたばかりの煙草をもみ消した。
 短く逆立てた髪が風に揺れている。
 焼けた肌に長い首筋。
 細いくせに引き締まった肩が、杏に向かって静かに伸びる。
 今まで見たこともない、遊馬の深く透き通った瞳の色に、杏は吸い込まれるように動きを止めた。
 手と手が触れる。
 ガシャンと食器が床に落ちる。
 三脚の揺れを気遣う余裕など、二人にはもうどこにもなかった。
「……アスマ?」
 仄かな煙草とお酒の匂いが、杏の最後の言葉を遮った。
 星は静かに揺れていた。
 虫が微かに鳴いていた。
 あたりに落ちた月明かりが、まるで二人のバンガローだけをそっと隠してくれているようだった。
 少しずつ深まる夜気の中で、ウッドデッキに座る二つの影がゆっくり重なった。
「ん」
 と杏が身をよじる。それも一瞬だけのことだった。
 遊馬を受け止める杏の目に、二つ目の流れ星が瞬いた。
「あ」
 と一瞬離れた唇が、再び熱く触れてくる。
 杏はそっと目を閉じた。
 不思議と恐くはなかった。
 だけど……

 互いの指先を握り合ったその時、「コツン……」と何かが震えたような気がした。

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テーマ: 自作連載小説
ジャンル: 小説・文学

コメント

若いなあ…

二人の距離が縮まった…と思ったら接触しちゃいましたね。
ああ、若いっていいわ(って、お前はオバサンか)

最後の「コツン」。これは恋愛と違う震えでしょうか。
気になります。

>AKARIさん

こんばんは。
なかなか更新できずやきもきしましたが、こうして待っていてくださり嬉しいです♪
若さ故、ですかね。
遊馬も大概頑張った方だと思います。笑
シチュエーションがこれですからね、まあ、所詮男なんてこんなモンです(をい

最後のコツン、
さあ、
さて、
少なくとも、プロローグで浅見が見た地震計の揺れとは違うことは確かです。ですが、地震計がすべてを拾うわけじゃないですから。

さあ、
さて。

うひゅ=!!!

ひゃぁあ~。職場でこっそり覗き見しつつニヤニヤしている私です(←こら)
前回のコメント通り♪しっかり近づいて、そして~!!
いやん、いやん。
気になるところで!!

一粒目(←?)の流星が、つん、と時間を区切って。話題が変わって、杏ちゃんのことへと…。うまいです~。
いちいち、遊馬くんのしぐさが男らしくって、すっかり杏ちゃん目線ですよ~(≧∇≦)ビール飲みたいっ!(←!?)
続き、コツン、が嫌なものでありませんように~~~!!

>らんららさん

こんにちは。
そうですねー
やっぱりこういう展開も必要だろうかなあと。
まあ定番というか。笑

遊馬はこんな感じです。
まったく興味がないような素振りで実はタイミングを狙っていたという、むっつりですね。むっつりイケメン。許せん!!!←え
しかし、
杏ちゃん目線なのにビール飲んじゃダメww

続き、舞台が変わります~
でも書いてる暇がねえ(>_<)。

時にらんららさん、そろそろまた掌編小説のお題発表の時期なのですが、さて、どうしましょうか。是非らんららさんから頂きたいのです♪

お題ですね♪

こんにちは!
皆さん今、忙しいみたいですね~♪
(連載のない自分は気楽…←をい)
では、「描く」などいかが?
いえ、chachaさんちのイノちゃんのイラスト、仕上げなきゃ~と思っているので。そんな単純発想ですが。
私ものんびりしていると、広告が出ちゃうし~(また、それか…^^;)
楓さんもお忙しそうですね♪
またまた、台風が近づいていますし。
でもまだ残暑厳しいですし。
お体に気をつけて~♪
(掌編小説ノススメに込め使用か迷いましたが…こちらに)

あ。

込め使用か←コメしようか、ですv-402

>らんららさん

こんばんはー!
そうそう、皆さん忙しそうなんですよね。
chachaさんも、kazuさんも、僕も……でもま、何とかなるか♪笑
それに、今回は新しい方もいらっしゃるかもしれないし☆

お題「描く」いただきました!
これはまた幅広そうな、どうとでも料理できそうな、でも、それでいて難しそうな(笑
掌編小説の方にアップしておきますね。
ありがとうございます!

くふふ^^

お疲れ様です、楓さん^^

きゃーっ、もう、甘酸っぱぁいっ!
読み終えてニヤニヤと、もう、なんていうかニヤニヤと!
やったね、遊馬くん!
そうか、むっつりイケメンだったのか(笑
いいの、その表に出さないのに狙っていたところに萌えるっ><
ガツガツしてないところが素敵っ><
なんていうかじたばたと暴れている私(笑
いやー、恋愛好きkazu、満面の笑みで読ませて頂きました。

二人の願いが、叶いますように。

最後の「コツン」、気になりますっ。
続き楽しみにしています^^

掌編小説、お題「描く」ですね!
向こうにも、参加宣言してまいります~♪
現在、知人宅で引越し作業に借り出され中なので、無心に掃除しつつ妄想繰り広げてまいります☆

>kazuさん

こんばんは。
完全に体調崩して鼻水ぐずぐずです。
kazuさんに気に入ってもらえて良かったです。
でも、
実はここで一度二人から離れます。
ごめんなさいです。笑

最後のコツンは、そういう感じで(どういう?笑
ああ、
しんどいす。

掌編小説、またも僕は最後になると思います。あははー♪

こんにちわ^^

うふぁ~!こういったドキドキ、たまらんのです!(笑)
いやいや、何だよ遊馬!おまえ、なんて男らしいんだっ!惚れちゃうじゃないかっ!><*
なんだか青春時代の甘酸っぱい思い出がよみがえりました♪二人の重なる影にドキドキして、合間に流れる星にまたドキドキして。
楓さんがこう、言葉と言葉の間に挟む描写が素敵に描くものだから、一層胸が高鳴りました!いやん♪ ←

遊馬のことも、杏ちゃんのことも。
お互い知らなかったことを知ることが出来たから。
今回のお泊りは二人にとっていい「きっかけ」になったんじゃないかな?^^

皆さんもおっしゃってるように。
最後のコツン、が気になります!><。
そして立ててあった三脚も…(笑)カメラ、大丈夫かな…(そこかよ
いやいや、それより何より、これから大変なことが起こりますもんね!?
うーあードキドキするー;;
続き楽しみに待ってます♪

>chachaさん

こんにちは。
皆さん、やっぱ女性はこういう展開が好きなのでしょうか。
惚れちまうやないかー!!って、Wエンジン?笑
会話と会話の間にできる息づかいというか、微妙な心の機微を感じさせるような間を取るために、短い描写を入れるというのは、僕がよく使う手ですね。昔は「……」を多用していたのですが、今は極力使わないようにしています。

これって、この展開があってこの後流星群を見て、さらにお泊まりってまずくね???とか思うのですが、まあ普通男なら確実に自制心を抑え込む事なんてできないでしょうねえ(^_^;)

ちなみに三脚は何とか無事だったそうです。
ただし、遊馬の……え(をい

続き、ちょっと時間かかりそうです。
仕事がハンパなく忙しいうえにストックが尽きました。更に体調を崩し、掌編小説を開催……自殺行為ですwww
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楓 十色

Author:楓 十色
仕事との両立に悪戦苦闘しながら、それでも物書きを止められない人。工学博士(防災工学専攻)、技術士(建設部門)。

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